きっとミュージックプレイヤーを仕掛けた人間も、大事になるのは避けたかったはずだ。
 だからこそ保健として、電池の残量を調節して再生時間の制限を設けたのだろう。
「じゃあお前は、飛燕が肖像画にシールを貼ったり、教室にミュージックプレイヤーを仕掛けたって言うのか?」
 教室での一件が人為的なものという説明は、確かに納得できた。
 だが冒頭でカズラが言ったように、それらの仕掛けは全て飛燕の仕業だと言うのか?
『ううん、それは分からない。断定するには証拠が足りなすぎるから』
 しかし、カズラは安易に肯定はしなかった。証拠が足りない、か。確かにここまでの推理ではトリックこそは説明できるが、それを具体的に誰が仕掛けたことまでは分からない。
『それでも飛燕さんが怪しい、って思った根拠はあるよ』
 断定はできないが、疑うべき点はある。そうカズラは言っている。
『違和感みたいなしこりは、最初の肖像画の時から感じてたんだ。でもそれが確信に変わったのは、ついさっきなの』
「つまり教室での出来事がか?」
『うん。肖像画の時と違って、教室の怪談は時間の制限があった』
 ミュージックプレイヤーを利用したあのトリックは、無音が三十分で笑い声は三分。
 計三十三分のサイクルで音声が再生されていた。もしも俺たちが笑い声が再生されている三分間の内に教室に入ってしまえば、あのトリックは十全に活かされなかっただろう。
「確かに偶然入ってきたタイミングが良かったけど、一歩間違えば目論見は失敗するしな」
『……ねえ、お兄ちゃん。それって本当に〝偶然〟なのかな?』
「は? 偶然に決まってるだろ。遠隔操作でもしない限り、狙ったタイミングで音声を再生するなんて不可能だって」
『いや、できるよ。少なくとも〝コツ〟さえ知っていれば、誰にでもそれができるんだよ』
 俺の言葉を否定するように、カズラは自信満々で断言する。
『さっきお兄ちゃんは〝ミュージックプレイヤーの再生時間は計三十三分〟って言ったよね? それは三十三分経てば、また次の三十三分が再生されるってことだよね』
「まあ、そうなるな」
 例えば七時ちょうどに再生が開始されれば、再生が終わるのは七時三十三分。
 そこから次のサイクルが始まれば、次に再生が終わるのが八時六分となる。