「でもそれだと、最初の小さな笑い声はなんなんだよ?」
 先程まで黙って話を聞いていた飛燕が不意に口を開いた。
 確かにここまでの説明では、最初に聞こえてきた声の正体は分からない。
「多分、それは〝陽動〟だな」
「陽動?」
「本命の笑い声の場所を攪乱するために、多分もう一個同じようなミュージックプレイヤーが隠してあるはずだ。多分、そっちに注意を逸らしておいて、本命のこっちから再生される笑い声で確実に驚かせたかったんだろうな」
 音源が二つあれば、机の中に隠してあるミュージックプレイヤーも見つかりにくい。
 最初に聞こえた声の元を探っている最中、その真後ろからけたたましい笑い声が聞こえれば、きっと恐怖は何倍にも膨れあがるだろう。
 そうなれば、悠長に声の元を調べる気力も削がれると言うものだ。
「はー、なるほどねぇ……」
「す、凄いよ定家君!」
 披露した推理に納得したのか、柊と秋海棠は感嘆の息を漏らしている。
 しかし俺はそれに対して、説明をしなければならなかった。
「いや実はさっきの推理は全部、カズラが言ってるのをそのまま伝えてただけなんだよ」
『イエ~イ、みんな見てる~?』
 どや顔でカメラ越しにピースするカズラ。
 画面側が俺の方に向いているので、二人にはその姿が見えないのが幸いか。
「はははっ、なんだ! それってまるで、身体は子供で頭脳は大人な名探偵みたいじゃん」
「そっか、流石はカズラちゃんだね」
 二人は俺の解説を聞くと、納得したように頷いた。
 先程からの推理はヘッドセット越しにカズラが言う推理を俺の口から言っただけであって、自分自身では全ての謎は解き明かしてはいなかった。
「なんだよ……急に牽牛が頭の良いこと言うから、ビビって損したぜ~」
「うるせぇ。でも今回のトリック、何となくは分かったよ」
 以前に遭遇した『路地裏の亡霊』の事件、あの時の経験が今回に生きたのだと思う。
 姿は見えなくても声は聞こえる、と言う点はどちらも共通している。
 ならばその矛盾を繋げている方法があるわけで、それが分かっているからこそ笑い声を聞いても冷静でいられたのだと思う。
 カズラもそれを知った上で、ああやって〝ヒント〟を出してくれたのだろう。
「とりあえず、教室の一件はこれで解決だな」
 一同を見渡しながら、確認するように言葉を投げかける。
 みんなそれに頷くと、飛燕が静かに口を開いた。
「残る怪談は残り一つ――」
 渡り廊下の肖像画、教室の笑い声、この二つの怪談を解き明かしたことによって、残る怪談はあと一つだけになった。
 それを解き明かしてしまえば、今日の目的は果たせることになる。
「音楽室の無人伴奏、だな」
 これから挑む最後の怪談。その名前を聞いて俺たちは、固唾を飲み込むのだった。