でも、と、先生は目を伏せた。
「あるとき、聖の病気が発覚して、それ以来、家から出られなくなっちゃったの」
「病気……?」
「睡眠障害の一種……階日リズム睡眠障害よ」
聞いたことのない病名。でも、睡眠障害なら、多少は知っている。日中、あまりにも眠くなることが多いので、私はもしかして過眠症じゃないのかと疑ったことがあったのだ。
ネットや本などでいろいろ調べてみると、私の場合はおそらく、体力のなさを睡眠をとることで補おうとしているのだろうという可能性に行き着いた。それなら病気ではないはずと、すこしホッとしたりもした。実際、私の場合は、授業中に寝てしまうことが多いだけで、日常生活にそれほど支障があるわけではなかったから。
けれどもっと調べていくうちに、怖くなったことも覚えている。世の中には、睡眠障害で日常生活を送れなくなってしまう人もいる。眠れなくなる不眠症、逆に寝過ぎてしまう過眠症。その症状に、深刻に苦しんでいる人が、たくさんいると知ったから。
「それって……」
「体内での睡眠と覚醒のサイクルが壊れる病気よ。時間の感覚がおかしくなる。夜を朝だと錯覚したり、時計が逆方向に回っているように感じたりする」
ハッとした。
夜10時の「おはよう」。
突然やって来る眠気。
日に日にその時間が早くなっていったーー。
「私たちは、夜の10時から12時まで、毎日壁越しに、話をしてた。私にとっての夜は、聖にとっては朝だった」
夜の10時から12時まで。
12時になったら消える声。
まるでシンデレラみたいだなと思った。
12時になった瞬間、魔法が消える。
部屋にいなかったんじゃない。それ以外の時間、聖はずっと、寝ていたんだ。
その2時間だけ、聖は起きていられた。
好きな人と、話すことができた。
「あるとき、聖の病気が発覚して、それ以来、家から出られなくなっちゃったの」
「病気……?」
「睡眠障害の一種……階日リズム睡眠障害よ」
聞いたことのない病名。でも、睡眠障害なら、多少は知っている。日中、あまりにも眠くなることが多いので、私はもしかして過眠症じゃないのかと疑ったことがあったのだ。
ネットや本などでいろいろ調べてみると、私の場合はおそらく、体力のなさを睡眠をとることで補おうとしているのだろうという可能性に行き着いた。それなら病気ではないはずと、すこしホッとしたりもした。実際、私の場合は、授業中に寝てしまうことが多いだけで、日常生活にそれほど支障があるわけではなかったから。
けれどもっと調べていくうちに、怖くなったことも覚えている。世の中には、睡眠障害で日常生活を送れなくなってしまう人もいる。眠れなくなる不眠症、逆に寝過ぎてしまう過眠症。その症状に、深刻に苦しんでいる人が、たくさんいると知ったから。
「それって……」
「体内での睡眠と覚醒のサイクルが壊れる病気よ。時間の感覚がおかしくなる。夜を朝だと錯覚したり、時計が逆方向に回っているように感じたりする」
ハッとした。
夜10時の「おはよう」。
突然やって来る眠気。
日に日にその時間が早くなっていったーー。
「私たちは、夜の10時から12時まで、毎日壁越しに、話をしてた。私にとっての夜は、聖にとっては朝だった」
夜の10時から12時まで。
12時になったら消える声。
まるでシンデレラみたいだなと思った。
12時になった瞬間、魔法が消える。
部屋にいなかったんじゃない。それ以外の時間、聖はずっと、寝ていたんだ。
その2時間だけ、聖は起きていられた。
好きな人と、話すことができた。