赤坂先生の目が、さらに大きく見開かれる。信じられない、というように。でも出てきた言葉は、そっけないものだった。
「……何の話?」
先生は、まるで、何かを怖がっているみたいだった。
触れないで。硬く閉ざした殻の中で、そう叫んでいる気がした。
心が揺らぐ。このことを、伝えていいのか、まだ迷っている。けれどあの言葉が本当なら、やっぱり伝えなければ。
たぶんそのために、私は聖の声を聞いたんだ。
この人を、あの部屋に連れて行くために。
聖は私を呼んだんだ。

『会えるんだから、ちゃんと話したほうがいいよ。後悔する前に』

そうだよね、聖。
私、今まで後悔ばかりだった。
そんな私を、聖がいつも優しい言葉で勇気づけてくれた。
本当に救われたんだ。
だから、今度は私が。
「お願いします。もう時間がないんです。本当のことを教えてください」
私は頭を下げて頼み込んだ。
「…その名前なら、知ってるわ。でも、どうしてあなたが」

ーーやっぱり。信じられないけれど、やっぱり、そうなんだ。

「先生が、聖がいつも言ってた幼なじみの女の子だったんですね」
「ーー聖が」
赤坂先生は、もう動揺を隠そうとはしていなかった。心細げに震える声で、その名前を呼んだ。
「待って……聖が言ってた?どういうことなの?」
「私、聖と話をしていたんです」
赤坂先生が固まっている。
きっと信じられないと思う。でも今は、信じてもらうしかない。
「今日の夜、私の家に来てください。そのときに全部話します」