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勢いよく職員室のドアを開けた。
中にいた先生たちが全員こっちを見たけれど、視線を気にする余裕なんてなかった。
「失礼しますっ」
奥のほうにある席に、彼女の姿はなかった。
先生たちの名前が書いてあるホワイトボードに目を向ける。
その名前を見て、確信を強めた。
やっぱり、そうだ。
次はーー音楽室だ。
急かされるように階段を駆け上がる。どうかいてくれますようにと願いながら。
昨日の夜、ずっと考えていた。その時点ではまだ予感でしかなかったけれど。
今日になって、予感は徐々に、確信に変わっていった。
嫌な胸騒ぎがする。
知るのが怖い。だけど、どうしても、確かめなくちゃいけないことがある。
音楽室に近くにつれて、ピアノの音が聴こえてくる。滑らかな音。切ない旋律。また、あの歌だ。
半分開いた扉から中をそうっと覗く。
ーー赤坂先生。
どこか寂しげな横顔は、前に見たときと同じ。
「失礼します」
私は頭を下げて言った。
「葉山さん……どうしたの?」
「……その歌、赤坂先生の歌ですよね」
単刀直入に言った。
「えっ」
赤坂先生が目を見開き、じっと私をみつめる。その表情と、否定しないことが、答えだと思った。
『この声、誰かに似てない?』
昨日、陽太に言われたときは、まさかと思った。
赤坂先生の歌声は聞いたことがないけれど、私よりずっと耳がいい陽太なら、わかるのかもしれない。
意識してその声を聞くと、やっぱり似ている気がした。
それに、職員室に書いてあった先生の名前。
『赤坂由花』
赤坂先生の下の名前は知らなかった。今まで気にしたこともなかったのだから当然だった。
先生の名前が「ユカ」ではなく、「ユイカ」だったら。
それにーー
今朝のことを思い出して、胸が押し潰されそうになる。
やっぱりあの言葉は、嘘じゃなかった。
いや、嘘であるはずがなかった。
あの人が、そんな嘘をつくはずがないのだ。
「先生」
私は先生をまっすぐに見て言った。
「先生は、本田聖という人を知っていますか?」