そっか、と彼は言った。
「ま、誰にでも話したくないことってあるしね。無神経なこと訊いてごめん」
と今度は急にしゅんとした声で言うから、なんだか申し訳ない気持ちになる。
「あ、あの……」
私はおずおずと口を開く。
「じつは、今日、ショックなことがあって……」
自分でもよくわからないまま、そう口にしていた。
へえ、と彼は興味を持ったように相槌を打つ。
「友達とケンカしたとか?」
「……」
「それとも、失恋?」
「う……」
「当たりだ」
「……なんか、楽しんでません?」
「まさか。人の失恋話聞いて喜ぶような嫌なやつじゃないよ」
その言い方がすでに胡散臭い。
でもさ、と聖は付け加えた。
「人に言えないような恥ずかしいことも、顔が見えない相手だと案外すんなり言えたりしない?」
「そう、かな……」
そうかもしれないと思った。だって私は、今、いっそ全部吐き出したい気持ちになっている。
陽太とケンカしたこと。それ以来話せなくなって、でも同じ学校だから意識してしまって、辛いこと。今日、陽太に彼女がいると、知ってしまったこと。
誰にも、親友の美咲にさえ言えない気持ちを。