どうしよう。こっちにくる。心の準備してたのに、今ので全部吹き飛んだ。守屋くんのせいで……いや守屋くんのせいではないけど……
「俺は応援してるよ、光里ちゃん」
「！？」
ぽんと肩を叩き、耳元で名前を呼ばれた。

ーーな、なんでいきなり名前！？

陽太が目の前に来て、その手をがしりと掴んだ。
「おまえな。誰にでも気安く触りすぎ」
陽太がすこし不機嫌そうに言った。
あああ、なんか怒ってる。練習邪魔したからかな。今さら何の用だとか、お前と話してる暇ないとか言われたら……
「光里」
正面からそう呼ばれて、ドキリとする。
「……場所、変えよっか」
「ええーなんでー？ここでいいじゃーん。俺見てるし」
「お前がいるからだよ。行こう」
「え、え……！？」
陽太は私の手を引いて歩き出した。
頭が混乱する。
なんで？さっき守屋くんに、気安く触りすぎって言ったのに。
それに、清水さんだって見てるのに……。

「あの、陽太……？」
私はおずおずと陽太の背中に声をかける。
「こうしてないと、光里、すぐ逃げるから」
前を向いたまま、陽太が言った。
「……逃げないよ。私から来たんだから」
「だな。じゃ、俺がこうしたかったんだ」
人気のない中庭まできて、陽太が笑って言った。

……今、なんて言った？

俺がこうしたかったって、え？
それはつまり、手を繋ぎたかったってこと？
いやいやいや、と舞い上がりそうな気持ちを即座に打ち消す。
どうしたんだろう。陽太がおかしい。だって陽太には清水さんという彼女がいるのに、そんなこと言うはずないし、彼女がいるのにそんなこと言ったり平気で手を繋いだりする陽太なんて……
「……はっ、もしかして陽太じゃない？」
「何言ってんの？」
思わず口に出してしまい、本気の呆れ顔で言われてしまった。
「そうだよね、陽太は陽太だよね、あはは」
ああどうしよう、今までにないくらい緊張してる。
それもそうだ。面と向かって話すのは、中学の卒業式以来なんだから。あのときはケンカしてしまって、話にならなかったし……。
怯みそうになる自分に、しっかりしろと叱る。
ここまで来たら、もう、言わなきゃ。