聖は袋を胸に抱いて言った。
「ありがとう。宝物にするよ」
とても高価なもののように、そして愛おしそうに。
「僕も光里に言いたかったことがある」
と聖は言った。
「この世界に釣り合わない人なんていないよ。だって生きている限り、人は変わっていくから。釣り合いなんて、本当のところは誰にもわからない。わかったような気になっているだけなんだ」
大丈夫だよ、光里。
月明かりの下で、聖は優しく微笑む。
「もう闘わなくていいんだ。光里が頑張ってるの、知ってるから。見てる人は、ちゃんといるから」
「うん……」
全身に力を込めて、その声を聞いた。少しの音も聞き漏らさないように。
優しくて温かくて力強い、その声を。
「約束しよう」
聖は細い小指を私に差し出す。
「光里のいちばん大切な人に、気持ちを伝えるって」

聖と話をしたのは、ほんの短い時間だった。
初めて、部屋の外で、「おやすみ」を言った。「また明日」とは言わなかった。
私が屋上を出るまで、聖はずっと手を振っていた。
これが聖と会う最後の日になると、言葉にしなくてもわかっていた。
そしてーー、
聖の声を聞いたのも、この夜が最後になった。