ドアをそっと開けて、そっと廊下の様子を伺う。まるで用意されたように、電気はすべて消えていた。お父さんとお母さんは、今日は早く寝たようだった。両親の寝室から、お父さんの豪快ないびきが聞こえてくる。
暗いのは怖いけれど、携帯のライトを最大にして照らせばかなり視界が明るくなる。怖さよりも、聖に会いたいという気持ちのほうが、強くなっていた。
なるべく足音を立てないように気をつけながらリビングを抜けて玄関までたどり着く。まるで夜中に忍び込む泥棒みたいな気分だ。入るほうじゃなくて、出るほうだけど。鍵を開けてドアを開ける。ひんやりとした通路には消えかけの頼りない蛍光灯の光がチカチカと点滅している。
足がすくむ。扉の外に一歩出ただけで、夜の真ん中にひとりきりで放り出された恐怖を覚える。でも、ひとりじゃない。ここはあの狭い倉庫の中じゃない。道は続いている。そしてその先に、聖がいる。
階段に向かう通路の途中、ふっと携帯のライトが消えた。
「え……っ」

ーー嘘、な、なんで!?

充電はまだあったはず。でも、最近減りが早くなってきていた。どうして確認しなかっだんだろう。私はいつもこうだ。同じ失敗ばかり繰り返してしまう。
暗闇の中、唯一の頼み綱が絶たれた瞬間。恐怖と絶望感に襲われた。このまま一生ここから出られなかったらどうしようと本気で怯えた。
暗い通路の真ん中で、一歩も動けなくなる。どうにか細い棒に捕まっていたのに、その棒がポキリと折れてしまったみたいだった。

ーー聖。ごめん。私……

泣きそうになる。手が震える。ガサ、と、袋の音がした。英語で書かれた店名。その存在を思い出させるように。これを渡すんだろうと教えるように。
私は袋を握り直す。

ーーそう、そうだった。

大事なことを、投げ出すところだった。
ここで逃げたら、私はもう二度と、聖に会えなくなる。逃げちゃダメ。絶対に、これを聖に渡すんだから。
一歩前に進む。一歩、もう一歩。
時間をかけてようやく階段までたどり着いた。目を見開く。立入禁止の看板が、なくなっていた。なんで、という疑問が湧いたけれど、今はそんなのどうでもよかった。
怖さは消えない。でもーー、
聖に会える。ひとりじゃない。
この先に、聖がいる。