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屋上までの階段の前には、今日も「立入禁止」の黄色い看板が置かれている。
もう屋上に行くことはできないんだな……と思うとやっぱり寂しい。陽太とのたくさんの思い出を灰色の扉の向こうに閉じ込めたまま、私はここを去ることになる。
階段の前を通り過ぎ、通路を歩く。夏の日差しの下、コンクリートの熱が触れるたびに靴越しに伝わってくる。
扉の前に黒い服の女の人が立っていた。お隣の本田さんーー聖のお母さん。
ドアを開けるでもなく、取手に手をかけることもなく、ただ灰色のドアを見つめて、何か思い詰めているように見えた。
いつもはこんにちはと言うのに、なぜかそのときは言えなかった。
私に気づいたのか(やっぱり目は合わなかったけれど)彼女は思い出したように鍵を開けて、中に入っていった。
相変わらず謎な人だ。聖の話では、すごく心配症みたいだけれど。やっぱりこのドアの奥の生活は、あまり想像できない。
10年も隣に住んでいたのに、最後まで何も知らないままだったな。
それでもーー
私は手元に視線を落として、CDの入った袋をギュッと握りしめた。
屋上までの階段の前には、今日も「立入禁止」の黄色い看板が置かれている。
もう屋上に行くことはできないんだな……と思うとやっぱり寂しい。陽太とのたくさんの思い出を灰色の扉の向こうに閉じ込めたまま、私はここを去ることになる。
階段の前を通り過ぎ、通路を歩く。夏の日差しの下、コンクリートの熱が触れるたびに靴越しに伝わってくる。
扉の前に黒い服の女の人が立っていた。お隣の本田さんーー聖のお母さん。
ドアを開けるでもなく、取手に手をかけることもなく、ただ灰色のドアを見つめて、何か思い詰めているように見えた。
いつもはこんにちはと言うのに、なぜかそのときは言えなかった。
私に気づいたのか(やっぱり目は合わなかったけれど)彼女は思い出したように鍵を開けて、中に入っていった。
相変わらず謎な人だ。聖の話では、すごく心配症みたいだけれど。やっぱりこのドアの奥の生活は、あまり想像できない。
10年も隣に住んでいたのに、最後まで何も知らないままだったな。
それでもーー
私は手元に視線を落として、CDの入った袋をギュッと握りしめた。