「何か探し物かい?」
おじさんがカウンターの奥に腕を置いて言った。ニコニコした人のいい顔は変わらない。
「はい。yuikaって人のCDなんですけど……もう置いてないですか?」
おじさんの細く垂れた目が、すこしだけ大きく開いた。
「あれはここにはないよ」
やっぱり……10年も前のものだし、有名な人でもないし、もう売られていないか。
「というか、もともと売り物じゃなかったしね」
「……え?」
意味がわからずに訊き返す。
「だって、陽太が、おじさんに勧められたって」
「あれはね、あげたんだよ。陽太くんに」
とおじさんはおもしろそうに言う。
「あのCDはね、非売品なんだ。知り合いとか、ほしいって言う人にあげてる」
「非売品……」
よくわからないけれど、それで納得した。1枚だけのCD。無名の歌手。何度ネットで検索しても出てこなかったのは、もともと売られていなかったからだったんだ。
「あれ歌ってるの、じつを言うとおじさんの娘なんだよね」
「ええっ、そうなんですか」
「知り合いの娘さんが、うちの娘の歌が好きだと言ってくれてねえ。誕生日プレゼントに送ったんだ。せっかくだからたくさん作っちゃおうと思ってね」
はははと笑いながら話すおじさんに、唖然とする。
そんな思いつきでCDを作ってしまうとは、やっぱりこの人ただものじゃないかも……。
それにしても、あのきれいな声の女の人と、このもさもさした髭のおじさんが親子だなんて、まったく想像がつかない。
というか、こんな商売っ気のないお店をやっているから独身なんだろうなと、勝手に思っていた。
「おじさんは娘の歌を世界一だと思ってる。人の心に響くいい声だって。だから形にしたかったんだ。娘の高校卒業祝いも兼ねてね」
おじさんは得意気に言って、それから「ただの親バカだけどね」とほんの少し謙遜した。
「誰かに伝えたいことがあるときは、歌を贈るといい。いい歌には何年経っても消えない力があるんだ」
おじさんがカウンターの奥に腕を置いて言った。ニコニコした人のいい顔は変わらない。
「はい。yuikaって人のCDなんですけど……もう置いてないですか?」
おじさんの細く垂れた目が、すこしだけ大きく開いた。
「あれはここにはないよ」
やっぱり……10年も前のものだし、有名な人でもないし、もう売られていないか。
「というか、もともと売り物じゃなかったしね」
「……え?」
意味がわからずに訊き返す。
「だって、陽太が、おじさんに勧められたって」
「あれはね、あげたんだよ。陽太くんに」
とおじさんはおもしろそうに言う。
「あのCDはね、非売品なんだ。知り合いとか、ほしいって言う人にあげてる」
「非売品……」
よくわからないけれど、それで納得した。1枚だけのCD。無名の歌手。何度ネットで検索しても出てこなかったのは、もともと売られていなかったからだったんだ。
「あれ歌ってるの、じつを言うとおじさんの娘なんだよね」
「ええっ、そうなんですか」
「知り合いの娘さんが、うちの娘の歌が好きだと言ってくれてねえ。誕生日プレゼントに送ったんだ。せっかくだからたくさん作っちゃおうと思ってね」
はははと笑いながら話すおじさんに、唖然とする。
そんな思いつきでCDを作ってしまうとは、やっぱりこの人ただものじゃないかも……。
それにしても、あのきれいな声の女の人と、このもさもさした髭のおじさんが親子だなんて、まったく想像がつかない。
というか、こんな商売っ気のないお店をやっているから独身なんだろうなと、勝手に思っていた。
「おじさんは娘の歌を世界一だと思ってる。人の心に響くいい声だって。だから形にしたかったんだ。娘の高校卒業祝いも兼ねてね」
おじさんは得意気に言って、それから「ただの親バカだけどね」とほんの少し謙遜した。
「誰かに伝えたいことがあるときは、歌を贈るといい。いい歌には何年経っても消えない力があるんだ」