学校の後、そのまま家には帰らず、バスに乗って駅前で降りた。
駅前に来たのは1ヶ月ぶりーーカラオケのとき以来だ。
あのときは、この街にいられるのが後もう少しなんて、思いもしなかった。ここにもいつでも来られると思っていた。
「よかった。まだあった」
この建物を見ると、思わずそうつぶやきたくなる。
剥げて文字の見えない看板。枯れた木の幹みたいにいろんなところがめくれている壁、ぼんやりとした薄暗い店内。そのオンボロの建物を見るたび、私はいつもまだ営業していることに安心する。それくらいやる気がなさそうに見えるのだ。
次々と古い建物が新しく変わっていく駅前の景色の前で、ずっと変わらない建物。中学の頃、陽太がこのお店を見つけて、私を連れてきた。激安の店を見つけたと言って。
「こらこら。人の店を勝手に潰さないでくれ」
つねに開いたガラスのドア(手動)の奥から、苦笑まじりの声が聞こえた。
「こんにちは。おじさん」
カウンターの奥にいたおじさんに私は頭を下げた。細い誰目にもさりとした顎髭が特徴的な、このCDショップの店主だ。
「久しぶりだねえ。光里ちゃん。今日は陽太くんと一緒じゃないのかい?」
「あ……はい」
中学の頃はあんなに頻繁に来ていたのに、高校に入ってからは一度も来ていなかった。陽太は来ているんだろうか。気になったけれど、なんとなく訊きづらい。
狭い店内に、ぎっしりとCDが並んでいる。CDだけじゃなく、骨董品みたいに古くて大きなレコード盤もある。
陽太が教えてくれた店。とにかく激安で、しかも置いてある商品の趣味も幅広く、センスがいい。普通のCDショップでは、少ないお小遣いの中からはなかなかたくさん買えないけれど、このお店でならまとめ買いもできるほど。なんでこんなに安いのかと訊くと、「企業秘密」と言って教えてくれないけれど。
大まかなジャンル分けだけされて、年代も歌手もバンドもバラバラに詰め込まれた棚。古い歌、新しい歌、知らない歌がたくさんある。もっといろんな歌を聴いてみたいと思う。
ここにももう来られなくなるんだと思うと、寂しさが募る。