◯
『この気持ちを伝えたかった』
14歳の誕生日に、小型のCDプレーヤーを買ってもらった。CDを聴くためだけのシンプルな機械。水色のこぢんまりとした形が気に入っている。スピーカーから流れる声は、高く透き通るように耳に心地いい。だけど胸を切るような哀しい歌だ。
1年前の3月。中学の卒業式よりすこし前に、紘太がこのCDをくれた。
『これやるよ』
短い言葉だった。
CDを貸し借りすることはよくあったけれど、もらったのは初めてだったから、びっくりした。
『あの店のおっちゃんにもらってさ。光里が好きそうだなと思って』
『ありがとう』
理由なんてなんでだってよかった。嬉しくて、私は笑って言った。
『yuika』という知らない歌手のCDだった。薄いシングルのジャケットには、真っ赤な花が映っている。入っている2曲は、全然印象の違う歌だった。1曲目は、幸せな恋の歌。2曲目は、哀しい失恋の歌。どちらも『伝えたいこと』がテーマになっている。
初めて聴いたときから、私はこの歌がすごく好きになった。それで、もっとほかに同じ歌手のCDがないかと、ネットで検索してみた。
だけど見つけられなかった。どうやら出したのはこの1枚だけで、それすらもうどこにも売っていない。
陽太が言う「あの店」には私もよく行っていたけれど、ケンカして以来足が遠のいていた。
2曲とも好きだけれど、辛いときに幸せな歌を聴く気にはならなくて、2曲目ばかりリピートして聴いている。
ベッドに横になって、目を閉じる。
授業中ならすぐにでも寝れるのに、こういうときに限って、いっこうに眠気はやってこない。早く寝て、今日聞いたことを忘れてしまいたいのに……。
いつ清水さんのことを好きになったんだろう。
どっちから好きになったんだろう。
清水さんのどこが好きなんだろう。
考えたってわかるわけがない。だって私は、彼女のことを何も知らない。
陽太のことならなんでも知っているつもりだったのに、いつの間にか知らないことだらけになっていた。
忘れようと思った。
『光里はただの幼なじみだから、そういうのじゃないよ』
中学3年の冬、そう言われたときも、ケンカしたときも、清水さんと付き合っていると知ったときも、忘れようと思った。
知らなかったんだ。
誰かを好きな気持ちは簡単には消せないんだって。
こんなにも大きかったんだって。
どんなに忘れようとしても、自分じゃどうしようもないんだって……。
現実を突きつけられて、初めて知った。
ーー私、まだこんなに、陽太のこと好きだった。
仰向けになって、両手で顔を抑える。哀しい歌とともに気持ちが噴き出すように涙があふれて、次から次へと止まらない。
『この気持ちを伝えたかった』
14歳の誕生日に、小型のCDプレーヤーを買ってもらった。CDを聴くためだけのシンプルな機械。水色のこぢんまりとした形が気に入っている。スピーカーから流れる声は、高く透き通るように耳に心地いい。だけど胸を切るような哀しい歌だ。
1年前の3月。中学の卒業式よりすこし前に、紘太がこのCDをくれた。
『これやるよ』
短い言葉だった。
CDを貸し借りすることはよくあったけれど、もらったのは初めてだったから、びっくりした。
『あの店のおっちゃんにもらってさ。光里が好きそうだなと思って』
『ありがとう』
理由なんてなんでだってよかった。嬉しくて、私は笑って言った。
『yuika』という知らない歌手のCDだった。薄いシングルのジャケットには、真っ赤な花が映っている。入っている2曲は、全然印象の違う歌だった。1曲目は、幸せな恋の歌。2曲目は、哀しい失恋の歌。どちらも『伝えたいこと』がテーマになっている。
初めて聴いたときから、私はこの歌がすごく好きになった。それで、もっとほかに同じ歌手のCDがないかと、ネットで検索してみた。
だけど見つけられなかった。どうやら出したのはこの1枚だけで、それすらもうどこにも売っていない。
陽太が言う「あの店」には私もよく行っていたけれど、ケンカして以来足が遠のいていた。
2曲とも好きだけれど、辛いときに幸せな歌を聴く気にはならなくて、2曲目ばかりリピートして聴いている。
ベッドに横になって、目を閉じる。
授業中ならすぐにでも寝れるのに、こういうときに限って、いっこうに眠気はやってこない。早く寝て、今日聞いたことを忘れてしまいたいのに……。
いつ清水さんのことを好きになったんだろう。
どっちから好きになったんだろう。
清水さんのどこが好きなんだろう。
考えたってわかるわけがない。だって私は、彼女のことを何も知らない。
陽太のことならなんでも知っているつもりだったのに、いつの間にか知らないことだらけになっていた。
忘れようと思った。
『光里はただの幼なじみだから、そういうのじゃないよ』
中学3年の冬、そう言われたときも、ケンカしたときも、清水さんと付き合っていると知ったときも、忘れようと思った。
知らなかったんだ。
誰かを好きな気持ちは簡単には消せないんだって。
こんなにも大きかったんだって。
どんなに忘れようとしても、自分じゃどうしようもないんだって……。
現実を突きつけられて、初めて知った。
ーー私、まだこんなに、陽太のこと好きだった。
仰向けになって、両手で顔を抑える。哀しい歌とともに気持ちが噴き出すように涙があふれて、次から次へと止まらない。