「……あ」
階段から、下を見下ろした。
門の横に陽太がいた。
この前、私を待っていた場所で。
携帯を耳に当てて、楽しそうに、笑っている。
その屈託のない笑顔に、胸が押し潰されそうになる。

『電話は嫌いなんだ』

そう言っていた陽太。

ーー電話、嫌いなんじゃなかったの?

なんで、そんなに楽しそうに笑ってるの?
好きな人と、話してるから?
夕陽に照らされた笑顔の向こうに、清水さんの照れたような笑顔が浮かぶ。
「……ごめんね、守屋くん」
薄暗い階段の壁にもたれてつぶやく。
ごめんね、ふたりを見てるのが好きだったって、言ってくれたのに。
お似合いだって言ってくれたのに。
やっぱり、無理かも。
だって、あんなに楽しそうな顔見ちゃったらもう、何も言えない。
だって、私、あきらかに邪魔者だ。
仕方ないこと、だったのかもしれない。
もう話したくないって、自分で、そう言ったんだから。
嫌なことから逃げて、目を逸らして、気持ちまでなかったことにして。
周りだけじゃなく、自分にもずっと、嘘をつき続けた。
それなのに、陽太が誰かを好きになって傷つくなんて。
でも、考えずにはいられなかった。
もし、あのとき、逃げなかったら。
怖さと向き合って、陽太ともちゃんと話をしていたら……
もしかしたら、違う今があったんじゃないかって。