「新しい大型プロジェクトに誘われててな。出世のチャンスなんだ」
「向こうの学校は9月から始まるみたいじゃない?急だけど、学校のほうは会社が紹介してくれるんだって」
「昔住んでた街の近くでね」
「お願いだ。光里」
「お母さんからもお願い。嫌かもしれないけど、高校を卒業するまでと思って」

ーーなんなの。

畳みかけるように私を説得する言葉をかぶせてくる。
私が逃げられないように。
お父さんも、お母さんも、勝手だよ。
衝撃の後に、ふつふつと怒りが込み上げてきた。
出世のチャンス?そんなの知らないよ。大人の事情に勝手に巻き込まないでよ。
昔住んでた街の近く?10年も前のことなんて覚えてないよ。
高校を卒業するまで?ーーそんな先のことなんて考えられないよ。
「でもね、急なことだし、光里にもどこで生活したいか選ぶ権利があると思うの。それで、もし光里が日本に残りたいならお母さんも一緒に……」
「そんなの、わかんないよ!」
立ち上がった私を、2人が驚いた顔で見ている。
今まで親に反抗したことなんてなかった。うちは自由主義だし、何かを強制されたこともなかった。でも、こういうときまで子どもにその主義を押しつけないでほしい。私がどこで生活したいか選ぶのは自由、私にはその権利がある、ーーそれで家族が離れ離れになっても、私の意見を尊重する?
そんなの、決められるわけないじゃん。
「光里っ!」
部屋を飛び出した。
勢いよく玄関を開ける。金色の空。夕焼けが淡く照らす通路。眩しい。胸の奥から押し出された感情を振り切るように走る。

ーー嫌だ。

そんなの、嫌だ。

大切な人がいる。
決して多くはないけれど、私にだって、離れたくない人たちがいる。
どっちかなんて選べない。