その夜は、携帯電話を耳に当てて聖と話した。もちろんフリなので、本体からは何も聞こえない。
「いきなり彼氏いるのかなんて言い出すから、びっくりしたよ」
私はため息混じりにぼやく。
「あはは、おもしろいお母さんだね」
聖はツボに入ったのか、あははと笑い出す。
「そ、そう?」
笑われると思わなかったから、私は驚きながら言う。
「でも、それならいいけどって……なんか、いちゃいけないみたいな言い方だった。お母さん、普段そういうことあんまり言わないのに」
後から考えてみても、あの言い方はやっぱり、どこか変だった気がする。お母さんはあまり私のプライベートについてあれこれ言ってこない。関心がないというより、自由にすればいいというスタンスだ。だから、どうして急にそんなことを訊くのか、不思議だった。
「心配なんだよ、きっと」
「聖のお母さんも、心配したりする?」
さりげなく、尋ねてみる。聖の家族のことは、なんとなく訊きづらかったから。
「うちの母親は、ものすごく心配症だよ。光里のお母さんよりすごいかも」
と苦笑する聖。
「そうなんだ……」
意外だった。
聖のお母さんーーあの全身黒づくめの女の人を頭に浮かべる。人に無関心そうだけど、子どものことになるとそんなに心配性になるんだ。
謎すぎてちょっと不気味だと思っていたあの女の人の、人間味のあるところを初めて知った気がした。
もっと訊いてみたい気もしたけれど、今日はほかにも相談したいことがあった。