6月に入って日に日に暑くなってきた。家に帰ってまず冷蔵庫を開け、冷たいお茶を飲む。
「光里、ちょっといい?」
洗濯物をたたみ終えたお母さんが目の前に座った。
「もしかしてあなた、彼氏がいたりする?」
ゴホッと私はむせた。だって、あまりにも唐突だったから……。
「え、いないけど、なんで?」
本当にいないのだから慌てる必要もないのだけれど、私は落ち着くためにグビリとお茶を飲む。
「だって、夜毎日電話してるでしょ?てっきり彼氏でもできたのかと思って」
またむせそうになった。
「で、電話……?」
毎日、電話なんてしていないけれど……話はしている。壁越しに。
そうか、とようやくお母さんの言っていることを理解した。まさか壁越しに会話しているなんて思わないから、誰かと電話していると思ってるんだ。いつも夜遅くまでお父さんとお酒を飲んでいるから、すっかり油断していた。
「ち、違うよ、友達。趣味がすっごい合って、盛り上がって……」
「ふうん?それならいいんだけど」
「大丈夫。そんな予定、まったくないから」
「そうよねえ。光里に限ってそんなことないと思ってたわ」
失礼なことを言いながら、安心したようにお茶を飲むお母さん。
……これからは電話を持って話したほうがいいかも。
でも、お母さんの言い方が、妙に気になった。どうしてあんな言い方をしたんだろう。