女の子の笑い声が聞こえる。通りの向かいの公園で親子が遊んでいるのが木々の間に見えた。白っぽい昼の光がのどかな光景に注いでいる。
会場を出てすぐ、階段の下のベンチに座って話をした。
今までずっと言えなかったこと。中学のときと同じことになるのが怖くて、本音を隠してしまったこと。美咲はときどき眉をひそめたりしながら、でもじっと私の目を見て、静かに話に聞き入っていた。
「……なにそれ、ふざけんな」
いきなり立ち上がった美咲を、私は驚いて見上げた。
「だってそんなの、怒って当然でしょ。なんで幼なじみってだけで、光里がそんなことされなきゃいけないの。何も責められるようなことしてないじゃない」
「それは……私が、陽太を好きって言ったから」

あの言葉が、張り紙でもつけられているみたいにいつも頭の中にあった。

『あんたと陽太じゃ釣り合わないって』

そんなの最初から、わかってた。好きだと自覚したたときから、望みなんてないことくらい。私と陽太は、違いすぎるから。
「誰かを好きな気持ちは、悪いことなんかじゃない。泣き寝入りするなんて許せないよ」
でも、と私はうつむく。
「でも、清水さんみたいな子なら、誰も文句なんで言わないから」
お似合いだよね、と誰かの声。私もそう思った。お似合いだ。みんながそう思えば、妬まれることだってない。
私はただ幼なじみだというだけで邪魔者扱いされたのに。
「言ってるじゃん」
「えっ?」
「光里が、言ってるじゃん。なんであの子なの、私じゃないのって」
「言ってないよ!」
「口では言ってないけど、光里は顔に全部出てるから」
「え……気づいてたの?」
驚いて言うと、「とっくに」と美咲は笑って認めた。
「幼なじみなのは知らなかったけど、光里の気持ちにはなんとなく気づいてた」
「そうなんだ……」
自分では意識しないようにしていたつもりでも、美咲にはバレバレだったんだと苦笑する。
「悔しいんでしょ?」
「うん。悔しい」
「悪いことした」なんて、笑いながら言った弥富はるかのことも。
10年間ずっと一緒にいた私より、陽太が高校で知り合ったばかりの清水さんを好きになったことも。
悔しいことだらけだった。
今まで私がいちばん近くにいたのに、陽太を取られたみたいで。
でもそんなのは、子どもじみたわがままだと思っていたから言えなかった。
「でも、もういいんだ」
私は言った。軽く言われて腹が立ったし、泣くほど悔しかった。でも、

『そんなことに余計な労力使わなくていい』

聖の言う通りだった。私は弥富はるかに私が苦しんできたことをわからせたいなんて、もう思わない。
「きっと言っても通じないと思うし、それよりもう、会いたくない。関わりたくないんだ」
わざわざ会って話して、嫌な思いをするのは、もう嫌だった。
「でも、美咲が怒ってくれて、すっきりした。私はそんな風に、怒れなかったから」
笑ってそう言うと、美咲は諦めたようにすとんとベンチに腰を下ろした。
「人がよすぎだよ、光里は。まあ、そういうところがいいところでもあるんだけどさ」
女の子の笑い声が青い空に響く。その笑い声に誘われるように、どこからやってきたのか、ほかの子ども集まってくる。賑やかな風景。暗い話は似合わないと思った。