◯
放課後。美咲と話しながら教室を出る。
「ああ、今日も赤坂先生にしごかれると思うと憂鬱」
「厳しそうだよね、赤坂先生」
「ほんっときついよ。できるまでひたすらやり直し。うちの部レベル高いから遅れないように必死だよ」
吹奏楽部の顧問は赤坂先生だ。きっと授業の何倍も厳しいのだろう。弱音を吐きながらも、頑張っている美咲はすごいと思う。
「じゃ、また明日」
「うん、バイバイ」
いつものように、下駄箱のところで美咲と別れる。
靴を変えようとしたとき、下駄箱の反対側から、女子の声が聞こえてきた。
「あの2人、付き合ってるらしいよ。陽太と亜実」
上履きを下駄箱に入れようとした手が止まった。
ーーえ……?
「あーやっぱりそうだよねー。そうかなとは思ってたー」
「この前弟のサッカーの試合見に行ったら、亜実と陽太くん2人で応援きてたよ」
「えーっ、家族ぐるみ?超仲良いじゃん」
「いい感じだもんね。むしろ付き合ってなかったんだってくらい」
「お似合いだよねーあの二人!」
付き合ってる……
お似合い……?
頭の中が真っ白になった。
しばらくすると彼女たちの声は聞こえなくなって、また新しい誰かがやって来ては通り過ぎていく。誰かの話し声。その内容は頭まで届かない。
「どうしたの、葉山さん?」
「あ……」
固まっている私を見て、後からやってきた同じクラスの女子が不思議そうに尋ねた。
「な、なんでもない」
そう言ったけれど、さっきの衝撃が大きすぎて、ちゃんと言えたかどうかはわからなかった。
「そう?じゃ、バイバイ」
「う、うん……」
早く帰らなきゃ、と思った。
ここに美咲がいなくてよかった。今、平常心を保てる余裕なんて、とてもなかった。
グラウンドではサッカー部がもう練習を始めている。
真っ先に目に入るのは陽太の姿。中学のときより、背が伸びた。髪も少し伸びた気がする。でも、よく通る声と、屈託のない笑顔は昔から変わらない。
陽太のことを好きになる人はたくさんいる。男も女も関係なく。いつも笑ってて、陽太がいるだけでその場が明るくなる。太陽みたいな存在。
私も陽太が大好きだった。
だけど、今は違う。
その気持ちはもう、消したはずだった。
『あの二人、付き合ってるらしいよ』
……なのに、どうして今、こんなに苦しいんだろう。
陽太に彼女ができた、ただ、それだけなのに。
グラウンドで陽太と清水さんが話しているのが見える。私が入れない場所で、楽しそうに笑っている。
可愛くて、女の子らしくて、小柄な体なのに驚くほど機敏に動く清水さん。私にないものを全部持っているような女の子。
あの子は、私が陽太の幼なじみということを知っているんだろうか。ふと気になったけれど、その気持ちもすぐに消える。
……知っていたとしても、関係ないか。
なんの取り柄もない地味な幼なじみの存在なんて、きっと眼中にもないだろう。
放課後。美咲と話しながら教室を出る。
「ああ、今日も赤坂先生にしごかれると思うと憂鬱」
「厳しそうだよね、赤坂先生」
「ほんっときついよ。できるまでひたすらやり直し。うちの部レベル高いから遅れないように必死だよ」
吹奏楽部の顧問は赤坂先生だ。きっと授業の何倍も厳しいのだろう。弱音を吐きながらも、頑張っている美咲はすごいと思う。
「じゃ、また明日」
「うん、バイバイ」
いつものように、下駄箱のところで美咲と別れる。
靴を変えようとしたとき、下駄箱の反対側から、女子の声が聞こえてきた。
「あの2人、付き合ってるらしいよ。陽太と亜実」
上履きを下駄箱に入れようとした手が止まった。
ーーえ……?
「あーやっぱりそうだよねー。そうかなとは思ってたー」
「この前弟のサッカーの試合見に行ったら、亜実と陽太くん2人で応援きてたよ」
「えーっ、家族ぐるみ?超仲良いじゃん」
「いい感じだもんね。むしろ付き合ってなかったんだってくらい」
「お似合いだよねーあの二人!」
付き合ってる……
お似合い……?
頭の中が真っ白になった。
しばらくすると彼女たちの声は聞こえなくなって、また新しい誰かがやって来ては通り過ぎていく。誰かの話し声。その内容は頭まで届かない。
「どうしたの、葉山さん?」
「あ……」
固まっている私を見て、後からやってきた同じクラスの女子が不思議そうに尋ねた。
「な、なんでもない」
そう言ったけれど、さっきの衝撃が大きすぎて、ちゃんと言えたかどうかはわからなかった。
「そう?じゃ、バイバイ」
「う、うん……」
早く帰らなきゃ、と思った。
ここに美咲がいなくてよかった。今、平常心を保てる余裕なんて、とてもなかった。
グラウンドではサッカー部がもう練習を始めている。
真っ先に目に入るのは陽太の姿。中学のときより、背が伸びた。髪も少し伸びた気がする。でも、よく通る声と、屈託のない笑顔は昔から変わらない。
陽太のことを好きになる人はたくさんいる。男も女も関係なく。いつも笑ってて、陽太がいるだけでその場が明るくなる。太陽みたいな存在。
私も陽太が大好きだった。
だけど、今は違う。
その気持ちはもう、消したはずだった。
『あの二人、付き合ってるらしいよ』
……なのに、どうして今、こんなに苦しいんだろう。
陽太に彼女ができた、ただ、それだけなのに。
グラウンドで陽太と清水さんが話しているのが見える。私が入れない場所で、楽しそうに笑っている。
可愛くて、女の子らしくて、小柄な体なのに驚くほど機敏に動く清水さん。私にないものを全部持っているような女の子。
あの子は、私が陽太の幼なじみということを知っているんだろうか。ふと気になったけれど、その気持ちもすぐに消える。
……知っていたとしても、関係ないか。
なんの取り柄もない地味な幼なじみの存在なんて、きっと眼中にもないだろう。