「それで、今日も言えなかったと」
と聖は壁の向こうで言った。
その言い方は、聞く前からすべてわかっていると言わんばかりだった。
「……はい」
私は正座をしてがくりとうなだれる。月曜日から4日。今日は言おう、明日こそ、と思いつつその話題に触れるタイミングを完全に見失っていた。明日は金曜日。時間が経てば経つほど、また打ち明けられなくなってしまうってわかってるのに。
「光里から聞いた美咲さんの感じだと、嘘をついたからって怒るとは思えないけどなあ」
私もそう思う。でもーー、
「本番前で人に構ってる余裕なんてないかもしれないし、邪魔したくもないし……」
言い訳だとわかっていながら、私はまだ逃げるための言葉を探している。
あれから、美咲はその話題を振ってこなくなった。
部活で疲れているのか、話したくないのか、別々で行動することが多くなった。
このままじゃダメだとは思う。言わなきゃ。
でもーー
「ピンチはチャンスだよ、光里」
と聖はどこかの熱血教師みたいなことを言う。
「たしかに守屋くんの暴露は不意打ちだったかもしれないけれど、彼のおかげで、打ち明けるきっかけができたんだから」
「きっかけ……」
守屋くんのせいでこんなことになってしまったと恨んでいたけれど、前向きな言い方をすればそんな風にも考えられるんだと驚く。
でもだからといって、感謝する気にはやっぱりならないけれど。
「大丈夫。光里なら言えるよ」
と聖は言った。
「そうかな……」
「うん、きっと」
まるでずっと歳上のお兄さんに頭を撫でられているみたいで、少し恥ずかしくなった。