「訊いてもいい?」
昼休憩に入るなり、美咲が私の机に両手をついて言った。
「昨日のこと。守屋くんはよくわからないこと言うし、光里は朝からずっと私を避けてるし、いいどういうことか加減説明してほしいんだけど?」
「え、えっと」
勢いに押されて口ごもる。
美咲ならきっと聞いてくれる。軽々しく誰かに言いふらしたりしないだろうことも、頭ではわかっている。
何より私は、知ってほしい、と思っている。
なのに言えない。昨日の夜、聖に話せたのは、顔が見えないからだった。いざ面と向かって言おうとすると、言葉が出てこなくなる。
「守屋くんは知ってるのに、私には教えてくれないんだ?」
「それは……守屋くんはただ同中だから知ってただけで」
「ふうん。言うつもりはないわけね。じゃあ、もうこのことは訊かない。言いたくないことを無理に言う必要はないもんね」
そう言いつつ、表情も口調も、あきらかに不満そうだ。
「それと私、今週、音楽室でお弁当食べるから」
「えっ」
「コンクール近いから、すこしでも練習したいの。部活の子も行くみたいだし」
「そうなんだ……」
次の言葉を探しているうちに、美咲はさっさと教室を出て行ってしまった。
教室の隅で、ぽつんと座ってお弁当を広げる。賑やかな空間で、自分だけが浮いてしまったみたい。ひとりで食べるお弁当は、味覚までおかしくなってしまったみたいに、味がよくわからなかった。