『あんたさあ、いじめられてたんだって？気持ちいいでしょ。そうやって何もしないで、幼なじみだからって陽太に守ってもらって、いい身分だよねえ』
『卑怯なんだよ』
『陽太がかわいそう』
『気持ち悪』
『死ねよ』
ガン！扉を蹴る衝撃に、私は頭を抱えて蹲った。
『高校生になっても、それ続けるつもり？』
『今のうちに卒業したほうがいいと思うよー？』
ーーガンガンガンガンガン！
暴言と暴力が、激しい雨のように暗闇から降りかかる。私はそれらから身を守るように身を縮めてうずくまった。衝撃がくるたび、まるで直接蹴られているみたいに、全身に重く響く。
どうしてこんな目に合うんだろう。惨めで、悔しくて、蹲りながら涙がこぼれた。
暗闇の中、絶望に包まれていく。
そこは滅多に人が通らない場所。元からおんぼろの倉庫はすこしくらい蹴られてもたぶん元とそれほど変わらないから誰も気づかないだろう。私は怖くて声が出せない。体に傷はつかないけれど、心は衝撃のたびに、ズタズタに傷つけられていく。
ーーごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。
釣り合わなくてごめんなさい。調子に乗ってごめんなさい。謝るから、お願いだから、許してください。
言葉は声にならなかった。夥しい数の暴言と衝撃に押し潰されそうになりながら、ただ時間が過ぎるのを待った。
そして突然、声と衝撃音が止まった。
同時に、弥富はるかがすすり泣く声が外から聞こえてきた。
『……ひどいよ。私、ずっと陽太のこと、好きだったのに』
『はるか、かわいそう』
さっき陽太をかわいそうと言った同じ声が言った。
信じられなかった。どうしてあなたが泣くの。
そのとき、わかった。彼女は、何をしても、自分たちが悪いことにはならない。かわいそうなのは強い弥富はるかで、弱い私は邪魔者。自分たちにとって都合の悪い考えは認めない。
『じゃあねー、うちらは帰るけど、あんたはそこでひとり反省会でもしてなよ』
『あ、このこと誰かにチクッたら殺すから』
その言葉とともに、ガシャン、と鍵がかけられた。
私は呆然とする。辺りが静かになった。狭くて暗い倉庫の中。私がここにいることは、あの子たちしか知らない。扉の向こうが次第に暗くなっていく。
どうしよう、このままずっと、ここから出られなかったらーー
そう思って、やっと気づいた。鞄の中の、携帯の存在に。
真っ先に頭に浮かんだのは陽太の名前。もう部活は終わっただろうか。電話をかけようとして、通話ボタンを押そうとした手が、止まった。
『高校生になっても、それ続けるつもり？』
弥富はるかの声が、呪いのように暗闇に響いた。
『気持ちいいでしょ。そうやって何もしないで守ってもらってばっかりで、いい身分だよねえ』
乱暴な言葉。でも、図星だった。自分でも思っていたから、言い返せなかった。私はずっと、陽太に甘えていた。
『光里を泣かせる奴は、俺が絶対、許さないから』
小さい頃、いじめられるたび、陽太が言ってくれた言葉が嬉しくて。
陽太がいれば大丈夫って、思っていた。
いつまで続けるんだろう。
いつまで私は、弱いままなんだろう。
このままじゃダメだ。
自分でなんとかしなければ。
だけど、誰かに伝えなければ、ここから出ることもできない。お母さんにもお父さんにも言えない。友達はもう誰も信用できない。焦って携帯を操作するうちに、ふっと画面が暗くなった。充電が切れたのだ。
ーー嘘。
頭が真っ暗闇になった。これじゃあ、本当に、誰にも助けを求められない。
『卑怯なんだよ』
『陽太がかわいそう』
『気持ち悪』
『死ねよ』
ガン！扉を蹴る衝撃に、私は頭を抱えて蹲った。
『高校生になっても、それ続けるつもり？』
『今のうちに卒業したほうがいいと思うよー？』
ーーガンガンガンガンガン！
暴言と暴力が、激しい雨のように暗闇から降りかかる。私はそれらから身を守るように身を縮めてうずくまった。衝撃がくるたび、まるで直接蹴られているみたいに、全身に重く響く。
どうしてこんな目に合うんだろう。惨めで、悔しくて、蹲りながら涙がこぼれた。
暗闇の中、絶望に包まれていく。
そこは滅多に人が通らない場所。元からおんぼろの倉庫はすこしくらい蹴られてもたぶん元とそれほど変わらないから誰も気づかないだろう。私は怖くて声が出せない。体に傷はつかないけれど、心は衝撃のたびに、ズタズタに傷つけられていく。
ーーごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。
釣り合わなくてごめんなさい。調子に乗ってごめんなさい。謝るから、お願いだから、許してください。
言葉は声にならなかった。夥しい数の暴言と衝撃に押し潰されそうになりながら、ただ時間が過ぎるのを待った。
そして突然、声と衝撃音が止まった。
同時に、弥富はるかがすすり泣く声が外から聞こえてきた。
『……ひどいよ。私、ずっと陽太のこと、好きだったのに』
『はるか、かわいそう』
さっき陽太をかわいそうと言った同じ声が言った。
信じられなかった。どうしてあなたが泣くの。
そのとき、わかった。彼女は、何をしても、自分たちが悪いことにはならない。かわいそうなのは強い弥富はるかで、弱い私は邪魔者。自分たちにとって都合の悪い考えは認めない。
『じゃあねー、うちらは帰るけど、あんたはそこでひとり反省会でもしてなよ』
『あ、このこと誰かにチクッたら殺すから』
その言葉とともに、ガシャン、と鍵がかけられた。
私は呆然とする。辺りが静かになった。狭くて暗い倉庫の中。私がここにいることは、あの子たちしか知らない。扉の向こうが次第に暗くなっていく。
どうしよう、このままずっと、ここから出られなかったらーー
そう思って、やっと気づいた。鞄の中の、携帯の存在に。
真っ先に頭に浮かんだのは陽太の名前。もう部活は終わっただろうか。電話をかけようとして、通話ボタンを押そうとした手が、止まった。
『高校生になっても、それ続けるつもり？』
弥富はるかの声が、呪いのように暗闇に響いた。
『気持ちいいでしょ。そうやって何もしないで守ってもらってばっかりで、いい身分だよねえ』
乱暴な言葉。でも、図星だった。自分でも思っていたから、言い返せなかった。私はずっと、陽太に甘えていた。
『光里を泣かせる奴は、俺が絶対、許さないから』
小さい頃、いじめられるたび、陽太が言ってくれた言葉が嬉しくて。
陽太がいれば大丈夫って、思っていた。
いつまで続けるんだろう。
いつまで私は、弱いままなんだろう。
このままじゃダメだ。
自分でなんとかしなければ。
だけど、誰かに伝えなければ、ここから出ることもできない。お母さんにもお父さんにも言えない。友達はもう誰も信用できない。焦って携帯を操作するうちに、ふっと画面が暗くなった。充電が切れたのだ。
ーー嘘。
頭が真っ暗闇になった。これじゃあ、本当に、誰にも助けを求められない。
