中学3年の秋。放課後、教室に忘れ物を取りに行ったとき。

『光里はただの幼なじみだから、そういうんじゃない』

友達と話していた陽太がそう言ったのを、はっきりと聞いてしまった。
人気者の陽太は、女の子から告白されることがよくあった。陽太は言わないけれど、その度に断っていたのを知っていた。
好きな人がいる、と、陽太が告白されるたびに言っているということも、噂で聞いて知っていた。

『誰だと思う?』
『光里じゃない?いつも一緒にいるし』
『絶対そうだよー』
『ええ、そんなことないよ』
友達に乗せられて、私も、そうかも、とひそかに思っていた。そうだったらいいな、という期待も込めて。
だから、その言葉はショックだった。私にとって陽太が特別なように、紘太も同じ気持ちでいるものだと勝手に思っていたから。

でもーーただの幼なじみだから。
勘違いだったんだ。

陽太の好きな人って、誰なんだろう。
その言葉を聞いてから、気になって仕方なくなった。
陽太と仲のいい女の子は、たくさんいた。誰とでもすぐに仲良くなる陽太は、きっと、好きな子だけ特別扱いしたりしないんだろう。
ショックだったけど、でも、私は今まで通り、陽太の幼なじみでいたかった。その関係が、心地よかったから。
ずっと片思いでもいい。この気持ちわ伝えて関係が壊れるより、このままがいい。
高校生になっても、私たちの関係は変わらない。そう思っていた。
3月の半ば。卒業を目前に控えた頃。クラスの女子が、今まで何度訊かれたかわからないことを、また訊いてきた。
『やっぱり光里、陽太くんのこと好きでしょ』
いつもはそんなことないと否定するのに、そのときはつい、うなずいてしまった。あのことを、聞いた後だったかもしれない。行き場をなくしたその気持ちを、誰かに話したかった。
『……でも、向こうはなんとも思ってないし』
『そんなことないって。絶対光里のこと好きだよ!』
『今告白しないと後悔するよ?いいの?』
私は単純にも、友達に煽られて、揺れていた。
陽太が私のことを好き、と二度も勘違いしたわけじゃない。でも、伝えないと、後悔する気がした。
変わらないと言いながら、本当はたまらなく不安だった。
高校に入ったら、今まで通りではいられないかもしれない。部活でもっと忙しくなるかもしれないし、友達と遊んだり、彼女ができたりするかもしれない。