「ねえ光里」
と聖が改まって言った。
「あの歌、またかけてくれる?」
「え?」
あの歌ーー考えてみればすぐわかることなのに、一瞬、わからなかった。
だって私は、さっきまでその歌を聴いていたから。
でも、そうか。やっぱりさっきの時間は、聖は部屋にいなかったんだ。
「うん、いいよ」
私は立ち上がって、プレーヤーの再生ボタンを押す。聴き慣れたイントロが流れ出し、歌が始まる。
「この歌、好きだなあ」
聖が寝起きの猫みたいなのんびりした声で言った。
「え、どっち?」
ちょうど2曲目に入ったところだったので、思わずそう尋ねた。
「1曲目のほう。明るくて、幸せな気分になれる」
本当に幸せそうに言うから、「そうだね」と、私も思わず微笑んでいた。
「光里はどっちが好き?」
「私は、こっちかな」
今流れている失恋ソング。どっちも好きだけれど、失恋したての今は、切ない歌のほうが心に響く。
不思議だなと思った。知らない人でも、同じ歌が好きというだけで、距離が近くなった気がする。
年齢は訊けなかったけれど、やっぱり同い年くらいだったらいいな、となんとなく思った。
「僕の好きな子は、歌が大好きだったんだ」
切ない歌に乗せるように、ふいに聖が言った。
好きな子、という言葉に、ドキリとした。
「嬉しいときも、悲しいときも、いつも歌ってて、僕はその子の隣で歌を聴くのが大好きだった」
「……そうなんだ」
聞き慣れていないからか、人の恋の話を聞くのは、なんだか秘密を覗き見るみたいで、少し気まずい。
でもーー聖の声が、なんだか、泣きそうだったから。
過去形なのも気になった。
「その子は、今、歌ってないの?」
「もう会えないから、わからない」
聖は言った。壁越しに聞こえる声が沈むのがわかった。
「会えない……?」
ドクン、と胸が大きく揺れた。
「その子は遠くに行ってしまったから。会いたくても会えないんだ」
聖は今も、その子のことが好きなんだ。壁の向こうから、ひたむきに誰かを思う気持ちが伝わってくる。
でも、会えないって、どうして……。
と聖が改まって言った。
「あの歌、またかけてくれる?」
「え?」
あの歌ーー考えてみればすぐわかることなのに、一瞬、わからなかった。
だって私は、さっきまでその歌を聴いていたから。
でも、そうか。やっぱりさっきの時間は、聖は部屋にいなかったんだ。
「うん、いいよ」
私は立ち上がって、プレーヤーの再生ボタンを押す。聴き慣れたイントロが流れ出し、歌が始まる。
「この歌、好きだなあ」
聖が寝起きの猫みたいなのんびりした声で言った。
「え、どっち?」
ちょうど2曲目に入ったところだったので、思わずそう尋ねた。
「1曲目のほう。明るくて、幸せな気分になれる」
本当に幸せそうに言うから、「そうだね」と、私も思わず微笑んでいた。
「光里はどっちが好き?」
「私は、こっちかな」
今流れている失恋ソング。どっちも好きだけれど、失恋したての今は、切ない歌のほうが心に響く。
不思議だなと思った。知らない人でも、同じ歌が好きというだけで、距離が近くなった気がする。
年齢は訊けなかったけれど、やっぱり同い年くらいだったらいいな、となんとなく思った。
「僕の好きな子は、歌が大好きだったんだ」
切ない歌に乗せるように、ふいに聖が言った。
好きな子、という言葉に、ドキリとした。
「嬉しいときも、悲しいときも、いつも歌ってて、僕はその子の隣で歌を聴くのが大好きだった」
「……そうなんだ」
聞き慣れていないからか、人の恋の話を聞くのは、なんだか秘密を覗き見るみたいで、少し気まずい。
でもーー聖の声が、なんだか、泣きそうだったから。
過去形なのも気になった。
「その子は、今、歌ってないの?」
「もう会えないから、わからない」
聖は言った。壁越しに聞こえる声が沈むのがわかった。
「会えない……?」
ドクン、と胸が大きく揺れた。
「その子は遠くに行ってしまったから。会いたくても会えないんだ」
聖は今も、その子のことが好きなんだ。壁の向こうから、ひたむきに誰かを思う気持ちが伝わってくる。
でも、会えないって、どうして……。