チャイムが鳴って、用紙を後ろから順に回収する。美咲が教えてくれたおかげでなんとか最後まで問題を解けたものの、できたのかどうかはまったく自信がない。
「はあー終わったぁ。ね、どうだった?」
清水さんがまたしてもいきなり振り向き、今度は晴れ晴れとした笑顔で話しかけてきた。
なんだろう、話したこともないのに、いきなりこの馴れ馴れしい……いや、このフレンドリーな感じ。
「え、ええと、一応最後まではできたかな」
「ええー、すごい。あたし最初のほうで悩みすぎて、最後までたどり着けなかったよー」
「そ、そっか」
苦笑いで答えながら、
ーー苦手なら、陽太に教えてもらえばいいのに。
ついそんな卑屈なことを考えてしまう私。
ふと、清水さんの肩越しに、筆箱が見えた。ピンク色のかわいらしい筆箱に、どこか見覚えのあるキャラクターのストラップがついている。
なんだっけと考えて、最近ヒットしたアニメのキャラクターだと思い出す。意外。清水さんみたいなかわいい子が、こういうのつけるんだ。
私の視線に気づいて、「あ、これ」と清水さんが筆箱を手に取った。
「これね、彼氏がくれたんだ。教えてもらってみて見たら、私もハマっちゃって」
「……そう、なんだ」
彼氏、という一言が、胸に突き刺さった。
そうだ、そのアニメは、陽太も好きだった。王道のバトルもので、私はあまり興味が持てなかった。
ーーそっか。清水さんも、好きだったんだ。
趣味まで一緒なんて、勝ち目がひとつもない。
私と陽太の共通の趣味は、音楽だった。
『光里、こういうの好きだろ』
陽太がくれたCDを、今でも大切に持っている。歌詞を全部暗記するくらい、何度も繰り返し聴いた。
だけど物よりも、本当は、私が好きなものを選んでくれたことが嬉しかった。
でも、趣味なんて変わっていくし、陽太はいろんなことに興味を持つので多趣味だ。
きっと、清水さんも、あのときの私と同じ。
その嬉しそうな表情から、小さなストラップをすごく大事にしているのがわかる。
胸が締め付けられる。
……未練たらたらだなあ、私。
「あの、葉山さんーー」
「ごめんね。用事あるから、もう行かなきゃ」
それ以上そこにいられなかった。私は鞄を掴んで、逃げるように教室を後にした。
廊下をとぼとぼ歩きながら、ふと疑問に思う。
ーー清水さん、私の名前知ってたんだ。
同じ学年とはいえ、クラスが違って接点がなければ、名前も知らない人はたくさんいる。
清水さんは目立つから知っていたけれど……
もしかして、と思った。
私が陽太の幼なじみと知っていて、声をかけてきたんだろうか。彼女の天使のような顔が、頭の中でロウソクみたいにゆらゆらと揺れる。
『これね、彼氏がくれたんだ』
あれはもしかして、私への牽制だったりして……。
確信はないけれど、そんな気がしてならなかった。
そんなことしなくたって、ただの幼なじみの私には、最初から勝ち目なんてないのに。
「はあー終わったぁ。ね、どうだった?」
清水さんがまたしてもいきなり振り向き、今度は晴れ晴れとした笑顔で話しかけてきた。
なんだろう、話したこともないのに、いきなりこの馴れ馴れしい……いや、このフレンドリーな感じ。
「え、ええと、一応最後まではできたかな」
「ええー、すごい。あたし最初のほうで悩みすぎて、最後までたどり着けなかったよー」
「そ、そっか」
苦笑いで答えながら、
ーー苦手なら、陽太に教えてもらえばいいのに。
ついそんな卑屈なことを考えてしまう私。
ふと、清水さんの肩越しに、筆箱が見えた。ピンク色のかわいらしい筆箱に、どこか見覚えのあるキャラクターのストラップがついている。
なんだっけと考えて、最近ヒットしたアニメのキャラクターだと思い出す。意外。清水さんみたいなかわいい子が、こういうのつけるんだ。
私の視線に気づいて、「あ、これ」と清水さんが筆箱を手に取った。
「これね、彼氏がくれたんだ。教えてもらってみて見たら、私もハマっちゃって」
「……そう、なんだ」
彼氏、という一言が、胸に突き刺さった。
そうだ、そのアニメは、陽太も好きだった。王道のバトルもので、私はあまり興味が持てなかった。
ーーそっか。清水さんも、好きだったんだ。
趣味まで一緒なんて、勝ち目がひとつもない。
私と陽太の共通の趣味は、音楽だった。
『光里、こういうの好きだろ』
陽太がくれたCDを、今でも大切に持っている。歌詞を全部暗記するくらい、何度も繰り返し聴いた。
だけど物よりも、本当は、私が好きなものを選んでくれたことが嬉しかった。
でも、趣味なんて変わっていくし、陽太はいろんなことに興味を持つので多趣味だ。
きっと、清水さんも、あのときの私と同じ。
その嬉しそうな表情から、小さなストラップをすごく大事にしているのがわかる。
胸が締め付けられる。
……未練たらたらだなあ、私。
「あの、葉山さんーー」
「ごめんね。用事あるから、もう行かなきゃ」
それ以上そこにいられなかった。私は鞄を掴んで、逃げるように教室を後にした。
廊下をとぼとぼ歩きながら、ふと疑問に思う。
ーー清水さん、私の名前知ってたんだ。
同じ学年とはいえ、クラスが違って接点がなければ、名前も知らない人はたくさんいる。
清水さんは目立つから知っていたけれど……
もしかして、と思った。
私が陽太の幼なじみと知っていて、声をかけてきたんだろうか。彼女の天使のような顔が、頭の中でロウソクみたいにゆらゆらと揺れる。
『これね、彼氏がくれたんだ』
あれはもしかして、私への牽制だったりして……。
確信はないけれど、そんな気がしてならなかった。
そんなことしなくたって、ただの幼なじみの私には、最初から勝ち目なんてないのに。