「あ、この花……」
棚の上の鉢植えに目が留まって、思わずつぶやいた。
音楽室にあるものと同じ、赤い花が、日光浴をするみたいに窓のほうを向いている。土はすこし湿っていた。毎日、お母さんが水をやっているのだとわかる。
「アマリリスね」
先生が涙を浮かべながら微笑んで言った。
「何か、意味があるんですか?」
「聖が教えてくれたの。アマリリスの花言葉は、おしゃべり、誇り、輝くばかりの美しさだって」
聖が言っていたことを思い出す。

『アマリリスの花言葉はおしゃべり。おしゃべりに緊張は似合わないでしょ』

私にはそう言っていたけれどーー

「私みたいだって、聖が言ってくれたの。恥ずかしいことをあんまり堂々と言うから、やめてよって言ったんだけど、本当は嬉しかった。それからこの花を見ると、自分にすこしだけ自信が持てるようになったの」
その言葉を聞いて、私は笑ってしまった。
私には、「緊張しないおまじない」だったのに。
それって、もう、告白してるようなものじゃない。

ーーねえ、聖。

私は心の中でそっと、見えない聖に語りかける。

『僕の時間は、3月からずっと止まっているんだ』

そう言っていた聖。
きっと、どれだけ経ったのかもわからないくらい、聖にとって長い間、ここで待っていたんだね。
その時間が、今、ようやく動き出したのかもしれない。
姿が見えなくても、声が聞こえなくても、その気持ちは、きっと届いている。
私はそう信じている。