パチパチ、と拍手の音に振り向くと、お父さんとお母さんがドアの前に、笑顔で立っている。
「よかったわ。3人ともすごく上手」
「パパ感動しちゃったよ……うう」
お父さんはなぜか泣いている。
赤坂先生が急に我に返ったように赤くなって、ペコペコ頭を下げる。
「す、すみません!こんな遅くに歌ったりして、いい大人として非常識なことを……」
「大丈夫です。常識なんて、どうでもいいのよ」
とお母さん。それは、いつも私に言っている言葉だ。
常識なんて気にしなくていい。自分の好きなように生きなさい。
「ゴーイングマイウェイだよ」
とお父さんはにこやかに親指を立てる。
「じゃ、いい歌を聴けたことだし、晩酌を再開しようか、ママ」
「そうね。行きましょうパパ」
2人は楽しそうに部屋を出て行った。
「相変わらず仲良いよなあ、光里んとこ」
陽太が笑って、
「いいご家族ね」
と先生も微笑ましそうに言った。
「はい。自慢の家族です」
「私も……あんな素敵なお母さんになれるかしら」
先生が目を落として、シャツの上からそっとお腹を撫でた。
「ここにね、赤ちゃんがいるの」
「えっ」
私と陽太が、同時に声をあげる。
結婚することは知っていたけれど、妊娠していたことまではしらなかった。驚きながら、まじまじと先生の平らなお腹を見つめる。
「まだわかったばかりで、全然変わってなくて実感がないんだけどね。でも、時々教えてくれるの。ここにいるよって」
ゆっくり、その存在を確かめ、愛おしむように。
「聖」
先生が壁に両手を当てて言った。
「大好きよ。ずっと、大好きだった。何度言っても足りないくらい。10年間、その気持ちを忘れたことは一度もなかった」
10年。それは、とても長い時間だったはず。
でも、と先生は声に力を込める。
「今、私、大切な人がいるの。私のことをすごく大切にしてくれる。辛いときに、支えてくれた人なの。だから、これからは私、前に進むことにするわ。幸せになるから。見ててね、聖」
前を向いて生きていくーーその言葉通り、先生はまっすぐ、前を向いていた。
そこにはもう、哀しい歌を弾きながら泣いていたあのときの先生はいなかった。
「よかったわ。3人ともすごく上手」
「パパ感動しちゃったよ……うう」
お父さんはなぜか泣いている。
赤坂先生が急に我に返ったように赤くなって、ペコペコ頭を下げる。
「す、すみません!こんな遅くに歌ったりして、いい大人として非常識なことを……」
「大丈夫です。常識なんて、どうでもいいのよ」
とお母さん。それは、いつも私に言っている言葉だ。
常識なんて気にしなくていい。自分の好きなように生きなさい。
「ゴーイングマイウェイだよ」
とお父さんはにこやかに親指を立てる。
「じゃ、いい歌を聴けたことだし、晩酌を再開しようか、ママ」
「そうね。行きましょうパパ」
2人は楽しそうに部屋を出て行った。
「相変わらず仲良いよなあ、光里んとこ」
陽太が笑って、
「いいご家族ね」
と先生も微笑ましそうに言った。
「はい。自慢の家族です」
「私も……あんな素敵なお母さんになれるかしら」
先生が目を落として、シャツの上からそっとお腹を撫でた。
「ここにね、赤ちゃんがいるの」
「えっ」
私と陽太が、同時に声をあげる。
結婚することは知っていたけれど、妊娠していたことまではしらなかった。驚きながら、まじまじと先生の平らなお腹を見つめる。
「まだわかったばかりで、全然変わってなくて実感がないんだけどね。でも、時々教えてくれるの。ここにいるよって」
ゆっくり、その存在を確かめ、愛おしむように。
「聖」
先生が壁に両手を当てて言った。
「大好きよ。ずっと、大好きだった。何度言っても足りないくらい。10年間、その気持ちを忘れたことは一度もなかった」
10年。それは、とても長い時間だったはず。
でも、と先生は声に力を込める。
「今、私、大切な人がいるの。私のことをすごく大切にしてくれる。辛いときに、支えてくれた人なの。だから、これからは私、前に進むことにするわ。幸せになるから。見ててね、聖」
前を向いて生きていくーーその言葉通り、先生はまっすぐ、前を向いていた。
そこにはもう、哀しい歌を弾きながら泣いていたあのときの先生はいなかった。