「聖」
私は壁に向かって言った。
「聖の好きな人が、ここにいるよ。来てくれたんだよ。だから、お願い、もう一度答えて」

ーーお願い、聖。

「お願い、聖。一昨日まではいたんでしょう。私も、声が聞きたい。聞かせてよ。もう一度でいいから」
壁に向かって、先生も訴える。
「ずっと前から、聖の家に行きたいと思ってた。お線香をあげに、聖の顔を見に……遠くといっても、電車を乗り継げば来られる距離だったの。だけど私はこなかった。聖がここにいないことが辛くて、現実を受け入れられなくて」
先生は壁に手をつけて語りかける。
「聖、ここにいたんだね。もっと早く来ればよかたんだね。そうしたら会えなくても、声だけは聞こえたかもしれないのにね……」
その言葉を聞いて、私は激しく後悔した。
もっと早く、私が気づいて、先生を連れてこればよかった。そうしたら、2人はもう一度話ができたかもしれない。
お互いの気持ちを、伝えられたかもしれないのに。
私、自分のことばかりだった。聖がいつも、私の話を聞いてくれるから。優しい言葉をかけてくれるから……。

ーーごめんね、聖。

聖の好きな人がこんなに近くにいたのに、気づけなくて。