「その兄は、エリのその言葉で決めたんだって。自分と同じような人を救うって」と、ナオさんは締めくくった。

 「よしできた」と、満足げに微笑む。彼の手元には、二十センチメートルはあろうという大きさの球がある。

 「……なんですか、それ?」

 「まり。手まりとか聞いたことない?」

 「ああ、手まりは知ってます。日本の古いおもちゃみたいなものですよね。でも、それってそんなに大きいんですか?」

 「ううん、これは特別に大きく作ったんだ」何日掛かったかわからないよとナオさんは笑う。やはり、当時の彼とは印象が違う。手芸部の女子が言ったように、表情が違う。エリさんは素敵な人なのだなとわたしは思う。

 ナオさんはひょいとまりを投げ上げると、落ちてきたそれをぽんと両手で受け止め、「我ながら上出来だ」と微笑む。

 「見てもいいですか」と言うと、彼はわたしの手にまりを載せた。彼のやっていたように投げ上げると、回転によって、糸で繊細に描かれた鳥が羽ばたくように動いて見えた。落ちてきたそれを受け止め、「すごいです」と声を上げた。

 「鳥が飛んでます」

 「それはそれは大変だったよ」

 「へええ、すごいです。文化祭でもまりを作ったんですよね、どんな模様にしたんですか?」

 「簡単なものだよ。大きい花みたいなものだったり、ジグザグを重ねたものだったり」

 「どれくらいかかりました?」

 「一個当たり、二日もあればできたかな。あまり覚えてないけど」

 ああそうだ、とわたしは思った。ナオさんが変わったのは、表情だけではない。手芸部の女子に表情が変わったと言われたというあの頃よりもまた、雰囲気が柔らかくなっている。彼自身に、緊張感がなくなったのだと思う。わからない、僕はすごくない……今まで言えなかったというそれらの言葉を、使えるようになったのだ。事実、わたしはナオさんの口からよく、その言葉を聞く。