本気で呆れたように言い放つ瀬名先輩を見て、私はひっそりと隠し持っていたものを取り出した。
 それは、瀬名先輩にこの前返されたばかりの、あの秘密のノート。
「なんでそんなもの持ってきてんの、お前」
「これ、久々に更新したので見てほしいんです」
「感想に困るポエムとか書いてねぇだろうな」
 瀬名先輩は、疑いながらおそるおそるそのノートを開いた。
 パラパラとめくって、ゆっくりと最終ページにたどり着くと、瀬名先輩はノートを持ったまま固まった。
 ノートの最終ページにあるのは、瀬名先輩のいいところがページ一杯に書き込まれた詳細プロフィールだ。
 下手糞な似顔絵と一緒に、私はたくさん瀬名先輩の長所を書き込んだのだ。

 一見近寄りがたいけど、じつは真面目で優しい人。
 基本意地悪だけど、いい意味で子供っぽいところがあってたまにかわいい人。
 言うことはキツいけど、言葉に力があって、嘘がない人。
 そして、弱い部分があるから、強い人。
 こんな人になってみたいと、たくさんの人に思わせるような人。
 私の呪いを解いて、平坦な毎日に意味を持たせてくれた人。
 優しい魔法使いのような人。
 一緒にいたいと思った人。
 愛しいと思った人。

 こんな箇条書きのラブレター、ちっともロマンチックじゃないな。
 だけど、今の私が書いたせいいっぱいの気持ちだ。
 おこがましいかもしれないけれど、いつか、この言葉が何かのお守りになりますように。
 どうしようもなく傷ついたときに、彼を救ってあげられますように。
 そう思って、私はそのページだけきれいに破って、瀬名先輩に渡した。
「何これ、お前……なんでこんなことすんの」
 ノートの切れ端を受け取った瀬名先輩の目から、一粒の涙が零れ落ちた。
 あまりに突然のことに驚き、私は動揺を隠し切れなかった。
 慌てている私の後頭部を掴んで、瀬名先輩は私のことを強引に抱き寄せる。
「こんなことされたら、琴音のことがどんどん大切になって、どんどん忘れやすくなる……」
「瀬名先輩……」
「お前のこと、死んでも忘れたくない……」
 瀬名先輩の声が震えている。
 いつも余裕そうな瀬名先輩だったけど、こんなにも怖がっていたんだ。
 瀬名先輩の弱さを知って、じんわりと胸の中が熱くなっていく。
「琴音……、好きだ」
「瀬名先輩、私も好きです。大好きです……」