『今日放課後、土手集合』。
 一言だけメッセージを送って、俺は窓いっぱいに咲き誇る桜を見上げた。
 今日はとんでもなく快晴だ。
 先週までの雪が嘘みたいに感じる。
 四季なんて気にしたことが無かったから、春はいつも突然やってくること、忘れていたかもしれない。

 高校から自転車を漕ぐこと約二十分。
 ようやく建物が少なくなってきて、柔らかな緑の土手が見えてきた。
 体力のない琴音は、息を切らしながらうしろをついてきていて、俺はそんな彼女を待たずにひょいひょいと最後の坂をのぼり、自転車をテキトーな場所に置いた。
「早く来い、琴音」
「はっ、はあっ……、待ってください先輩、酸素がっ……」
 夕日が川面をキラキラと輝かせていて、あまりのまぶしさに思わず目を細める。
 階段をいちだんずつゆっくり降りて、川近くの芝生に腰を下ろした。
 俺が座ってから少し経って、ようやく琴音が近くにやってきて、芝生の上に倒れ込む。
 制服が汚れることなんか、もう構っていられないほど疲れたらしい。
「はあっ……、なんでそんなに先輩余裕そうなんですか……」
「お前はなんでそんなに死にかけてんだ」
「普段話し相手がいなくてエネルギーを使ってないから慣れてないんです……」
「今日頑張ってたじゃん」
「え? なんのことですか……?」
 琴音はきょとんとした顔をしたが、俺は笑いながら「なんでもねぇよ」とつぶやいた。
 土と草の匂いを久々に感じながら、思い切り深呼吸をしてみる。
 青々とした新鮮な春の空気が、俺たちの髪をふわりと空に舞い上がらせる。
 ふと、琴音の髪の毛がいつもと違ってゆるやかにカーブしていることに気づいて、俺は髪を指で掴んだ。
「……何これ。巻いてんの?」
「あ、はい。昼休憩に村主さんたちに遊ばれて……」
 よく見たら、前髪もすっきりと横に流されていて、いつもよりずっと顔がよく見える。
 どんな姿でも琴音であることに変わりはないけど、表情が見えやすいのはいいかもしれない。
「いいじゃん、かわいい」
「え!? なんですかそれ」
「どんな反応だそれ」
「す、すみません、言われたことが無さすぎて、うっかり違う言語に感じてしまって……。というより、今日はなんで土手なんですか」
 照れ隠しで急に話題を変えた琴音は、焦った様子で目を泳がせている。