◇
思った以上に人がいる。
あの人を見つけるのは至難の業かもしれない。
「ねえ、今日これが終わったらご飯に行かない?」
「今日こそ遊びに行こうよ」
帰ってしまおうかと思っていたら、近くで男の声が聞こえて来た。
誰か誘われていて、大学ならこういうことがあるのか、なんて思いながら見回してみる。
「遠慮します」
誘われた人は冷たい声で断った。
かっこいい人……
「え……」
僕はその冷たい声の主を見つけてしまった。
あの人だ。
姉さんが言っていたのは嘘じゃなかったらしい。
見たことがないくらい、目に光がない。
僕が彼女を凝視しすぎたせいか、彼女が僕に気付いた。
みるみる明るくなっていく。
だけど、すぐに目を逸らした。
あの日以来会っていないのだから、こういう反応は当然か。
「どうしたの?」
「もしかして知り合い?」
男たちは断られたくせに、彼女に言い寄っている。
僕はそれが面白くなくて、間に割って入る。
「僕の彼女に近寄らないでもらえますか」
威嚇のつもりで睨むが、男たちは大声で笑った。
「そんな見え見えの嘘をつくなって」
「さっき思いっきり目、逸らされてたのに、彼女って」
……僕、かっこ悪くないか。
こんなにあっさりと嘘だってバレて、好きな人も守れないなんて。
「嘘じゃない」
すると、後ろにいた彼女が僕に抱き着いてきた。
「ヒロトは私の彼氏だよ」
今までうっとうしいと思っていた行動に、初めて嬉しいと思ってしまった。
初めて名前を呼ばれたこともあってか、余計に照れる。
そんな僕たちを見て、男たちは舌打ちをして人混みに消えていった。
その瞬間、彼女は僕から離れた。
「助けてくれてありがとう、弟君」
作り笑顔だし、呼び方戻ったし。
なんだこれ。
一気にどん底に落とされた気分なんだが。
彼女はそれ以上何も言わず、僕から離れようとする。
僕は咄嗟に彼女の手首を掴む。
「弟君……?」
彼女は困惑した表情で僕を見てくる。
「嘘じゃ、ないんで」
「……何が?」
まさか冷たい声が僕に向けられるとは思っていなかった。
まるで拒絶されたようだ。
「あなたのことを、好き……ってやつ、嘘じゃないです」
「……信じないもん。弟君、ピュアなくせに、嘘の告白ができる人だもん。今も私のこと、からかってるんでしょう?」
泣きそうな表情に、自分がどれだけのことをしてしまったのかを思い知らされる。
からかっていたのはあなたのほうだ、と前の僕なら言っただろう。
でも、そうじゃないってわかったから。
真剣に彼女に向き合わなければと思ったから。
「からかってません。本気で、あなたのことが好きです」
すると彼女は泣きながら僕に抱き着いてきた。
「あのね、弟君」
彼女は耳元で囁く。
耳元で聞こえてくる好きな人の囁き声というのは、割と好きかもしれない。
「名前呼んでほしいな」
そんな可愛いおねだりをされて、応えないわけにはいかない。
僕も彼女の耳元で名前と、そしてもう一度好きだと伝える。
彼女は僕の首に回していた手に力を込めた。
少し苦しいが、彼女が笑ってくれるなら、これも悪くない。
もう、君を傷つけないように頑張るから。
いつまでも僕の隣にいてね。
思った以上に人がいる。
あの人を見つけるのは至難の業かもしれない。
「ねえ、今日これが終わったらご飯に行かない?」
「今日こそ遊びに行こうよ」
帰ってしまおうかと思っていたら、近くで男の声が聞こえて来た。
誰か誘われていて、大学ならこういうことがあるのか、なんて思いながら見回してみる。
「遠慮します」
誘われた人は冷たい声で断った。
かっこいい人……
「え……」
僕はその冷たい声の主を見つけてしまった。
あの人だ。
姉さんが言っていたのは嘘じゃなかったらしい。
見たことがないくらい、目に光がない。
僕が彼女を凝視しすぎたせいか、彼女が僕に気付いた。
みるみる明るくなっていく。
だけど、すぐに目を逸らした。
あの日以来会っていないのだから、こういう反応は当然か。
「どうしたの?」
「もしかして知り合い?」
男たちは断られたくせに、彼女に言い寄っている。
僕はそれが面白くなくて、間に割って入る。
「僕の彼女に近寄らないでもらえますか」
威嚇のつもりで睨むが、男たちは大声で笑った。
「そんな見え見えの嘘をつくなって」
「さっき思いっきり目、逸らされてたのに、彼女って」
……僕、かっこ悪くないか。
こんなにあっさりと嘘だってバレて、好きな人も守れないなんて。
「嘘じゃない」
すると、後ろにいた彼女が僕に抱き着いてきた。
「ヒロトは私の彼氏だよ」
今までうっとうしいと思っていた行動に、初めて嬉しいと思ってしまった。
初めて名前を呼ばれたこともあってか、余計に照れる。
そんな僕たちを見て、男たちは舌打ちをして人混みに消えていった。
その瞬間、彼女は僕から離れた。
「助けてくれてありがとう、弟君」
作り笑顔だし、呼び方戻ったし。
なんだこれ。
一気にどん底に落とされた気分なんだが。
彼女はそれ以上何も言わず、僕から離れようとする。
僕は咄嗟に彼女の手首を掴む。
「弟君……?」
彼女は困惑した表情で僕を見てくる。
「嘘じゃ、ないんで」
「……何が?」
まさか冷たい声が僕に向けられるとは思っていなかった。
まるで拒絶されたようだ。
「あなたのことを、好き……ってやつ、嘘じゃないです」
「……信じないもん。弟君、ピュアなくせに、嘘の告白ができる人だもん。今も私のこと、からかってるんでしょう?」
泣きそうな表情に、自分がどれだけのことをしてしまったのかを思い知らされる。
からかっていたのはあなたのほうだ、と前の僕なら言っただろう。
でも、そうじゃないってわかったから。
真剣に彼女に向き合わなければと思ったから。
「からかってません。本気で、あなたのことが好きです」
すると彼女は泣きながら僕に抱き着いてきた。
「あのね、弟君」
彼女は耳元で囁く。
耳元で聞こえてくる好きな人の囁き声というのは、割と好きかもしれない。
「名前呼んでほしいな」
そんな可愛いおねだりをされて、応えないわけにはいかない。
僕も彼女の耳元で名前と、そしてもう一度好きだと伝える。
彼女は僕の首に回していた手に力を込めた。
少し苦しいが、彼女が笑ってくれるなら、これも悪くない。
もう、君を傷つけないように頑張るから。
いつまでも僕の隣にいてね。