彼女がゆっくりと僕から視線を外す。
両手で顔を覆った。
「……照れる」
耳まで赤くして、本当に照れているんだとわかる。
少し手が下がると、目が合った。
「かわ……」
僕は慌てて口を塞いだ。
待て待て?
今僕は何を……
彼女を可愛いだって?
いや、可愛いさ。
こんな風に照れるなんて思っていなかったから、余計に可愛いと思ったよ。
「弟君?」
僕の顔を覗き込んでくる、その普通の表情ですら、直視できなくなった。
「いや……今の、嘘……なんで」
彼女はあからさまに落ち込んだ。
「嘘……そうだよね。弟君は私のことなんて、興味ないもんね」
「あ……」
彼女を傷つけた罪悪感から、謝りたくなる。
だけど、あのとき僕が言ったのは、間違いなく嘘だ。
「あの」
「ごめんね、弟君。それ食べ終えたら洗っておいてくれるかな」
彼女は僕の言葉を聞いてくれなくて、食卓を離れた。
あんな作り笑顔、初めて見た。
僕が傷つけた……よな。
いやだって、まさか本気で僕のことを好きであんなことをしていたとは、誰が想像できるんだよ。
なんて、言い訳だよな。
あの人は真剣に告白してきたのに、僕は嘘で返した。
こんな最低なことはない。
あとで謝ろう。
◇
「あいつならもう帰ったよ」
翌朝、姉さんがコーヒーを飲みながら教えてくれた。
あの人はあれ以降、僕のところに来なくて、謝ることができなかった。
朝なら会うだろうと思っていたのに……
避けられた、か……
「あんた、あいつに何かしたの?」
「……なんで」
間違いなく僕がやらかしたが、それをわざわざ姉さんに言う必要はない。
「昨日の夜、泣いてたから」
その事実は想像以上に僕の心に突き刺さった。
「あいつが泣く理由はあんた以外にないから」
「そんなわけないだろ」
「あいつ、基本的に誰にも興味ないし、無感情だから」
姉さんは、あの人の話をしているんだよな……?
「ま、信じられないならうちの大学に来てみな。すぐにわかるから」
「高校生が大学に行けるわけないだろ」
「お前、オープンキャンパス知らないのか」
先生が志望校に行けって言っていたような気がする。
「でも僕の志望校、姉さんの大学じゃないんだけど」
「真面目かよ。オープンキャンパスに行くのは一つの大学じゃないといけないなんて決まってないから」
それなら行ってみてもいいかもしれない。
「……それ、いつあるの?」
「知らない。自分で調べろ」
アドバイスするだけしておいて、肝心なところで役に立たない人だ。
なんて、口が裂けても言えないが。
登校中に姉さんの大学を調べると、オープンキャンパスの情報はすぐに出て来た。
どうやら一週間後にあるらしい。
行ってみるか。
◆
彼女がうちに来ない一週間は思った以上に長かった。
本格的に避けられているなと思うと、結構メンタル削られる。
「うわ、死人みたい」
いきなり暴言はどうかと思う。
僕だって傷つくんだからな。
「今日行くんでしょ?」
「うん。よかったら姉さんも……なんでもないです」
誘おうとした瞬間、ものすごく嫌そうな顔をされた。
話している途中でそんな顔をされたら、諦めるしかないだろう。
「……て、姉さん学校休みなの?」
「そうだけど」
「あの人、いるの……?」
「成績優秀者としてなんか話すんだって」
それはまた意外な一面。
「そろそろ時間」
「本当だ。行ってきます」
姉さんは歯ブラシを咥え、追い払うように手を動かした。
……それでこそ僕の姉だ。
両手で顔を覆った。
「……照れる」
耳まで赤くして、本当に照れているんだとわかる。
少し手が下がると、目が合った。
「かわ……」
僕は慌てて口を塞いだ。
待て待て?
今僕は何を……
彼女を可愛いだって?
いや、可愛いさ。
こんな風に照れるなんて思っていなかったから、余計に可愛いと思ったよ。
「弟君?」
僕の顔を覗き込んでくる、その普通の表情ですら、直視できなくなった。
「いや……今の、嘘……なんで」
彼女はあからさまに落ち込んだ。
「嘘……そうだよね。弟君は私のことなんて、興味ないもんね」
「あ……」
彼女を傷つけた罪悪感から、謝りたくなる。
だけど、あのとき僕が言ったのは、間違いなく嘘だ。
「あの」
「ごめんね、弟君。それ食べ終えたら洗っておいてくれるかな」
彼女は僕の言葉を聞いてくれなくて、食卓を離れた。
あんな作り笑顔、初めて見た。
僕が傷つけた……よな。
いやだって、まさか本気で僕のことを好きであんなことをしていたとは、誰が想像できるんだよ。
なんて、言い訳だよな。
あの人は真剣に告白してきたのに、僕は嘘で返した。
こんな最低なことはない。
あとで謝ろう。
◇
「あいつならもう帰ったよ」
翌朝、姉さんがコーヒーを飲みながら教えてくれた。
あの人はあれ以降、僕のところに来なくて、謝ることができなかった。
朝なら会うだろうと思っていたのに……
避けられた、か……
「あんた、あいつに何かしたの?」
「……なんで」
間違いなく僕がやらかしたが、それをわざわざ姉さんに言う必要はない。
「昨日の夜、泣いてたから」
その事実は想像以上に僕の心に突き刺さった。
「あいつが泣く理由はあんた以外にないから」
「そんなわけないだろ」
「あいつ、基本的に誰にも興味ないし、無感情だから」
姉さんは、あの人の話をしているんだよな……?
「ま、信じられないならうちの大学に来てみな。すぐにわかるから」
「高校生が大学に行けるわけないだろ」
「お前、オープンキャンパス知らないのか」
先生が志望校に行けって言っていたような気がする。
「でも僕の志望校、姉さんの大学じゃないんだけど」
「真面目かよ。オープンキャンパスに行くのは一つの大学じゃないといけないなんて決まってないから」
それなら行ってみてもいいかもしれない。
「……それ、いつあるの?」
「知らない。自分で調べろ」
アドバイスするだけしておいて、肝心なところで役に立たない人だ。
なんて、口が裂けても言えないが。
登校中に姉さんの大学を調べると、オープンキャンパスの情報はすぐに出て来た。
どうやら一週間後にあるらしい。
行ってみるか。
◆
彼女がうちに来ない一週間は思った以上に長かった。
本格的に避けられているなと思うと、結構メンタル削られる。
「うわ、死人みたい」
いきなり暴言はどうかと思う。
僕だって傷つくんだからな。
「今日行くんでしょ?」
「うん。よかったら姉さんも……なんでもないです」
誘おうとした瞬間、ものすごく嫌そうな顔をされた。
話している途中でそんな顔をされたら、諦めるしかないだろう。
「……て、姉さん学校休みなの?」
「そうだけど」
「あの人、いるの……?」
「成績優秀者としてなんか話すんだって」
それはまた意外な一面。
「そろそろ時間」
「本当だ。行ってきます」
姉さんは歯ブラシを咥え、追い払うように手を動かした。
……それでこそ僕の姉だ。