◇
「さあさあ、弟君。愛のこもった手作り料理ですよ」
食卓からいい匂いがしてくると思ったら、腕を引かれて席に座らされた。
彼女は僕の目の前に座る。
その隣で姉さんが一人で夕飯を食べ始めた。
彼女の目が早く食べてと言っている。
僕は箸を手に取り、ハンバーグに箸を通す。
一口サイズに切り、口に含む。
「……うま」
思わず零れた言葉を、彼女はしっかりと聞き取っていた。
両手を頬に当てて笑っている。
ポテトサラダもみそ汁もおいしくて、あっという間に食べ終えてしまった。
「ごちそうさまでした」
「おそまつさまでした」
まるで音符でもついているかのように楽しそうに言う。
「そうだ、弟君。ゼリー食べない?作ったの」
彼女は僕の返事を聞くより先に席を立った。
料理ができるだけでなく、お菓子も作れるのか。
家庭的な部分があるとは、意外だ。
「ふっ」
冷蔵庫からゼリーを取り出している彼女の背中を見つめていたら、姉さんが鼻で笑った。
「……何」
「胃袋掴まれたな」
返す言葉もない。
認めたくはないが、彼女の料理をまた食べたいと思ったのは事実だ。
「どうしたの?ケンカ?」
ゼリーを持ってきた彼女は空気を読まずに入って来た。
まあ、僕が一方的に姉さんを睨んでいただけだが。
「うちの弟様はどうやら単純らしい」
姉さんはそう言うと、立ち上がって彼女の肩に手を置いた。
「そうなの?弟君!」
また必要以上に近付いてくる。
どれだけのけぞっても、距離を縮められる。
「こいつ、お前の料理が好きなんだってさ」
「ちょっと、姉さん!」
その余計なことを言う口を今すぐ閉じてくれ。
姉さんが丁寧にばらしてくれるせいで、彼女の目がどんどん輝いていく。
「もう、そんなに照れないの」
座っている僕に抱き着いてきたら、僕の頭はちょうど胸にあたるわけで。
彼女の向こうにいる姉さんが声を殺して笑っている。
姉さんに逆らってもいいことなんかないから、文句は言わないでおくが、この人がこうして僕をからかってくる理由がわからない。
なんとなく、僕の反応を見て楽しんでいるようには思えない。
だからこそ、わからないんだ。
僕から離れた彼女は、隣に座った。
「弟君」
「……なんですか」
彼女が作ってくれたゼリーにスプーンを通す。
「一緒にお風呂に入ろっか」
口に入れたゼリーが出てきかけたじゃないか。
「はあ!?」
ここまで大きな声を出したのはいつぶりだろう。
だが、出さずにいられるか。
「ダメ?」
文句を言う気力も失せる。
見直したと思えばこれだ。
頭おかしいんじゃないか。
「あ、そっか」
何かを思い出したのか、彼女は座りなおした。
わざとらしく咳ばらいをした。
「好きだよ、弟君」
「……はい?」
今、なんて?
「好き。言ってなかったなと思って」
まっすぐ目を見つめてくる。
……いやいやいや。
またいつものやつだろ。
これを本気にしたら、今まで以上に笑われるに決まってる。
というか、姉さんだったら一方的にやられるのも仕方ないと思えるが、この人は違う。
少しくらい仕返ししてもいいだろう。
「……僕も好きだって言ったら?」
見つめ返して言うと、彼女は目を見開いた。
仕返し成功か。
「さあさあ、弟君。愛のこもった手作り料理ですよ」
食卓からいい匂いがしてくると思ったら、腕を引かれて席に座らされた。
彼女は僕の目の前に座る。
その隣で姉さんが一人で夕飯を食べ始めた。
彼女の目が早く食べてと言っている。
僕は箸を手に取り、ハンバーグに箸を通す。
一口サイズに切り、口に含む。
「……うま」
思わず零れた言葉を、彼女はしっかりと聞き取っていた。
両手を頬に当てて笑っている。
ポテトサラダもみそ汁もおいしくて、あっという間に食べ終えてしまった。
「ごちそうさまでした」
「おそまつさまでした」
まるで音符でもついているかのように楽しそうに言う。
「そうだ、弟君。ゼリー食べない?作ったの」
彼女は僕の返事を聞くより先に席を立った。
料理ができるだけでなく、お菓子も作れるのか。
家庭的な部分があるとは、意外だ。
「ふっ」
冷蔵庫からゼリーを取り出している彼女の背中を見つめていたら、姉さんが鼻で笑った。
「……何」
「胃袋掴まれたな」
返す言葉もない。
認めたくはないが、彼女の料理をまた食べたいと思ったのは事実だ。
「どうしたの?ケンカ?」
ゼリーを持ってきた彼女は空気を読まずに入って来た。
まあ、僕が一方的に姉さんを睨んでいただけだが。
「うちの弟様はどうやら単純らしい」
姉さんはそう言うと、立ち上がって彼女の肩に手を置いた。
「そうなの?弟君!」
また必要以上に近付いてくる。
どれだけのけぞっても、距離を縮められる。
「こいつ、お前の料理が好きなんだってさ」
「ちょっと、姉さん!」
その余計なことを言う口を今すぐ閉じてくれ。
姉さんが丁寧にばらしてくれるせいで、彼女の目がどんどん輝いていく。
「もう、そんなに照れないの」
座っている僕に抱き着いてきたら、僕の頭はちょうど胸にあたるわけで。
彼女の向こうにいる姉さんが声を殺して笑っている。
姉さんに逆らってもいいことなんかないから、文句は言わないでおくが、この人がこうして僕をからかってくる理由がわからない。
なんとなく、僕の反応を見て楽しんでいるようには思えない。
だからこそ、わからないんだ。
僕から離れた彼女は、隣に座った。
「弟君」
「……なんですか」
彼女が作ってくれたゼリーにスプーンを通す。
「一緒にお風呂に入ろっか」
口に入れたゼリーが出てきかけたじゃないか。
「はあ!?」
ここまで大きな声を出したのはいつぶりだろう。
だが、出さずにいられるか。
「ダメ?」
文句を言う気力も失せる。
見直したと思えばこれだ。
頭おかしいんじゃないか。
「あ、そっか」
何かを思い出したのか、彼女は座りなおした。
わざとらしく咳ばらいをした。
「好きだよ、弟君」
「……はい?」
今、なんて?
「好き。言ってなかったなと思って」
まっすぐ目を見つめてくる。
……いやいやいや。
またいつものやつだろ。
これを本気にしたら、今まで以上に笑われるに決まってる。
というか、姉さんだったら一方的にやられるのも仕方ないと思えるが、この人は違う。
少しくらい仕返ししてもいいだろう。
「……僕も好きだって言ったら?」
見つめ返して言うと、彼女は目を見開いた。
仕返し成功か。