「さあさあ、弟君。愛のこもった手作り料理ですよ」

食卓からいい匂いがしてくると思ったら、腕を引かれて席に座らされた。
彼女は僕の目の前に座る。
その隣で姉さんが一人で夕飯を食べ始めた。

彼女の目が早く食べてと言っている。

僕は箸を手に取り、ハンバーグに箸を通す。
一口サイズに切り、口に含む。

「……うま」

思わず零れた言葉を、彼女はしっかりと聞き取っていた。
両手を頬に当てて笑っている。

ポテトサラダもみそ汁もおいしくて、あっという間に食べ終えてしまった。

「ごちそうさまでした」
「おそまつさまでした」

まるで音符でもついているかのように楽しそうに言う。

「そうだ、弟君。ゼリー食べない?作ったの」

彼女は僕の返事を聞くより先に席を立った。

料理ができるだけでなく、お菓子も作れるのか。
家庭的な部分があるとは、意外だ。

「ふっ」

冷蔵庫からゼリーを取り出している彼女の背中を見つめていたら、姉さんが鼻で笑った。

「……何」
「胃袋掴まれたな」

返す言葉もない。

認めたくはないが、彼女の料理をまた食べたいと思ったのは事実だ。

「どうしたの?ケンカ?」

ゼリーを持ってきた彼女は空気を読まずに入って来た。
まあ、僕が一方的に姉さんを睨んでいただけだが。

「うちの弟様はどうやら単純らしい」

姉さんはそう言うと、立ち上がって彼女の肩に手を置いた。

「そうなの?弟君!」

また必要以上に近付いてくる。
どれだけのけぞっても、距離を縮められる。

「こいつ、お前の料理が好きなんだってさ」
「ちょっと、姉さん!」

その余計なことを言う口を今すぐ閉じてくれ。
姉さんが丁寧にばらしてくれるせいで、彼女の目がどんどん輝いていく。

「もう、そんなに照れないの」

座っている僕に抱き着いてきたら、僕の頭はちょうど胸にあたるわけで。

彼女の向こうにいる姉さんが声を殺して笑っている。

姉さんに逆らってもいいことなんかないから、文句は言わないでおくが、この人がこうして僕をからかってくる理由がわからない。

なんとなく、僕の反応を見て楽しんでいるようには思えない。
だからこそ、わからないんだ。

僕から離れた彼女は、隣に座った。

「弟君」
「……なんですか」

彼女が作ってくれたゼリーにスプーンを通す。

「一緒にお風呂に入ろっか」

口に入れたゼリーが出てきかけたじゃないか。

「はあ!?」

ここまで大きな声を出したのはいつぶりだろう。
だが、出さずにいられるか。

「ダメ?」

文句を言う気力も失せる。

見直したと思えばこれだ。
頭おかしいんじゃないか。

「あ、そっか」

何かを思い出したのか、彼女は座りなおした。
わざとらしく咳ばらいをした。

「好きだよ、弟君」
「……はい?」

今、なんて?

「好き。言ってなかったなと思って」

まっすぐ目を見つめてくる。

……いやいやいや。
またいつものやつだろ。

これを本気にしたら、今まで以上に笑われるに決まってる。

というか、姉さんだったら一方的にやられるのも仕方ないと思えるが、この人は違う。

少しくらい仕返ししてもいいだろう。

「……僕も好きだって言ったら?」

見つめ返して言うと、彼女は目を見開いた。

仕返し成功か。