「そっか。なにかあったら言って」

「ありがとうございます。僕には篠崎さんしかいません」


弱気な彼が私を頼ってくるのは日常茶飯事だが、イケメンに変身した彼に『篠崎さんしかいません』なんて言われると、不覚にも鼓動が速まる。

とはいえ、彼の性格を知っているので、すぐに落ち着いた。

その日に最初に向かったのは、リカーショップ米山(よねやま)。
ここは安定して商品が売れていて、フォローアップは欠かせない。


「こんにちは。エクラです」


バックヤードで品出し作業をしていた担当の米山さんに声をかける。
三十代なかばの彼は店長の息子で、商品の採用権限を持つキーマンだ。


「こんにちはー。あれっ、担当交代?」


私のうしろに立っている十文字くんに視線を送り、そんなひと言。


「以前、ごあいさつさせていただいたじゃないですか。十文字です」


十文字くんが初めてここを訪問したときに名刺を出してあいさつをしたら、「珍しい苗字だね」と言われ、「東北地方に多いんですよ」と盛り上がったような。