その後もなぜか不機嫌な十文字くんと営業に出ることにした。
部署を出た彼はいつもと変わらない表情に戻る。
「金曜に深沢さんの歓迎会するって」
車に乗り込んだあと、真由子から届いたメールを見て彼に伝える。
「そうですか」
「ね、どうした? 皆に見られすぎて恥ずかしい?」
あまりにぶっきらぼうなので心配になる。
深沢さんが来て注目がそれたものの、それまで皆の目はずっと彼に向いていたからだ。
ひっそり生きていきたいタイプに見える彼には苦痛だったのかもしれないと、気になった。
「恥ずかしいです。でも、篠崎さんがいてくれるから大丈夫です」
前から思っていたけれど、彼って母性本能をくすぐるタイプなのかも。
胸の奥がムズムズする。
「そ、そう? でも、ここにシワが寄ってるよ?」
私は彼の眉間をペチペチ指で叩いて言う。
「それは、あの……。なんでもありません」
途端に歯切れの悪い、いつもの彼が顔を出す。