それから先週の売り上げデータの確認をしていると、深沢さんがやってきた。
二課の一人ひとりに声をかけて回っているのだ。
とても丁寧な人だった。
「初めまして。今いいですか?」
「はい。篠崎あやめです。よろしくお願いします」
立ち上がって腰を折ると、隣の十文字くんも同じように立つ。
連動しなくてもいいのに、いつもふたりで一組だから仕方がないか。
「篠崎さんですね。噂は耳に入っていますよ。後輩の指導がお上手だとか」
あれっ、それは嫌みなの?
それとも間違った情報が伝わっていて、純粋に褒めているの?
「恐縮です……」
どちらかわからなかったが、とりあえず当たり障りのない返事をしておいた。
「それに、新規開拓も臆せず向かっていく、とても優秀な方だと。よろしくお願いしますね」
彼が私に手を差し出してくるので握ろうとしたそのとき。
「十文字志季です。篠崎さんのパートナーです。よろしくお願いします」