あいさつが終わったあと、私は自分のパソコンの辞令のメールをクリックしてみた。


「深沢清彦 三十五歳……」


年齢より落ち着いて見えるのは、いつも一緒にいる十文字くんが幼く感じるからなのかもしれない。

そんなことを考えて隣に視線を移すと、なぜか十文字くんは険しい表情をしている。

誰だって新しい上司が来るときは多少なりとも緊張するものだ。

困った顔をしなくても、ヘマをしなければ叱られないから大丈夫よ? 
って、ヘマをするのが十文字くんか……。

彼は人見知りが激しいし、深沢さんに慣れるのに時間がかかるかもしれない。


「いい男、来た」


真由子が小声で話しかけてくる。


「そう言うと思った。でも、既婚者かもよ?」


いい男ほど独身で残っている確率は低い。
もし未婚でも彼女がいる可能性は高い。


「なんで、夢を打ち砕くかな」
「現実を見なさい、現実を」


なんて、男性関係がことごとくうまくいかない私が言うことではないけど。