「ね、串さとが脱税だって」
「はい」


あれっ、反応が薄い。


「もしかして……知ってた?」


店長の女癖が悪いことを調査済みだった彼もまさかそこまではと思ったが、念のために尋ねる。


「はい。店長に愛想をつかしていた従業員たちが、売り上げをごまかしていると話していましたので、国税局に連絡しました」

「はぁっ? 十文字くんが通報したの?」

「いけませんでしたか?」


私は鼻息を荒くしているのに、どうしてそんなに冷静なの? 
あなたはすごいことをしたのよ?

おそらくマルサは、たったひとりから寄せられたあいまいな情報だけでは踏み込まない。なにか証拠をつかんだはずだ。
単なる噂ではなく、本当に脱税していたということだろう。


「いけなくないよ。すごいってびっくりしてるの。ね、真由子」


ふと真由子に視線を送ると、彼女は十文字くんを穴が開くほどの勢いで見つめてカチカチに固まっていた。