やっぱりお母さんからは脱出できそうにない。

しかし、彼には一日でも早く営業としてひとり立ちしてもらわなければならない。
そのためにお母さんが必要ならいつでもやる。


「あはっ。ねぇ、お腹空かない? この近くにおいしい洋食屋さんがあるんだけど」


不穏な空気も感じずあの男の子は近くにいないと判断した私は、十文字くんをランチに誘った。


「行きます!」


彼は食べ物の話をするといつもいい返事が返ってくる。

仕事で同行しているときは、昼食を外でとることがほとんどだけど、たっぷり食べてデザートでしめるのがいつものパターン。

彼はかなりの甘党だ。

一方、アルコールを主に扱う会社だというのにすぐに酔ってしまうらしく、中でもビールは苦くて苦手と言う。

それなのにどうしてエクラに入社したのか、まずそこからして不思議ちゃんなのだ。


「この時季は桃パフェがあるんだけど」
「それは食べなければ!」


仕事のときもそのハキハキさでお願い。

ひと言物申したかったが、彼があまりに弾けた笑顔を見せるので黙っておいた。