あぁ、持ち上げてるのか。

くだらないことを頭の片隅で考えているうちに試着が終わり、十文字くんが試着室のカーテンを開けた。


「え……」


ジャケットのボタンをはめながら振り返った彼を見て、息が止まる。


「モデルだ……」


体の線にあったスーツを纏うと、足の長さが際立っている。
しかも、胸板が厚く肩幅もしっかりある、いわゆる逆三角形体型なのだと初めて知った。

ぶかぶかのスーツではわからなかったのだ。
店員の発言は、営業トークではなかった。


「なんで隠してたのよ?」


これなら、今まで遠巻きに見ていた女性が間違いなく近づいてくるよ?

営業実績三割増しになるのでは?と本気で思うような変身ぶりに、呆気にとられるしかない。

でも、やっぱりネクタイが曲がっている。


「十文字くん、せっかくなんだからネクタイもちゃんと締めて」
「篠崎さん、お願いします」


今までの十文字くんならあきれながら直してあげるところだが、こんないい男に変身されては照れる。