今さらあなた相手によいしょする必要もないでしょ?
「本当ですか? うれしいな」
心なしか耳を赤く染めた彼を見ていると、こちらが照れる。
そういえば、どうして途中で私を呼んだのだろう。
まさか、あのもののけが見えていて助けてくれたということはないよね。
それに、銀髪の彼ならまだしも、へっぴり腰の彼がそんなことをしてくれるわけないか。
いや、そもそももののけが見えてはいないのだから偶然か。
私は不思議に思いながら、美容院をあとにした。
「次はスーツね。十文字くん、いつもちょっと大きすぎるよ。ちゃんとサイズを合わせて買えばいいと思うな。実はもうお店をチョイスしてあるの」
さすがに男性用のスーツのお店は知らず、あらかじめリサーチしてある。
「助かります!」
勝手に決めては悪いかと思ったが、彼が大げさなほどに感謝を伝えてくるので、本当に自分ではどうしたらいいのわからないんだなと感じた。