見えてもそこは黙っておいてよ。

恥ずかしさのあまり顔が沸騰しそうだ。

それにしても、どうして私がもののけに襲われてケガをしたことがわかったのだろう。
どこかで見ているの?

私は、混乱したままストッキングをはき替えた。


トイレを出て店内に戻ったが、十文字くんの姿がない。


「彼、終わりました?」


床の掃除をしていた美容師に尋ねると「お手洗いに立たれましたよ。あとは乾かして整えるだけなので、もう少しお待ちください」と教えられた。

まさか、隣にいたの? 
私と銀髪の男の会話、聞こえてた?


「篠崎さん」


うしろから声をかけてきたのは、ニコニコ顔の十文字くんだ。


「あっ、あのね。私がしゃべってるの聞こえた?」

「篠崎さんって、トイレでひとりごとを言うタイプですか?」

「あー、そうね。うるさかった? ごめん」