「い、痛い……」


振り払えないでいると、ふくらはぎに爪を立てられて焦る。

これは無視しておけないと感じた私は、より大きく脚を動かした。
しかし、爪が食い込むだけで離れない。


「離れてよ」


小声でつぶやき雑誌でバンバン叩く。
すると同じように雑誌を読んでいた人たちの冷たい視線を浴びてしまった。


「すみません……」


頭を下げている間も、爪が皮膚に食い込んでいく。

痛い。やめて……。

たまらなくなり思いきって男の子を手でつかんで離そうとするもびくともしない。
それどころかギロリとにらまれて、背筋が凍った。

なんなのこれ、どうしよう……。


「お客さま。お連れさまがお呼びです」


そのとき、美容師さんに話しかけられてハッとする。
それどころじゃないのに。

けれど、見えていない人たちに助けを求めてもどうにもならない。


「篠崎さん」


私がなかなか来ないからか、十文字くんにまで呼ばれて、仕方なく男の子を引きずったまま近づいていった。