とって代わるのではなく、ガイアビールにはないような商品をアピールすることから始めて、徐々にシェアを伸ばしていく作戦を試みている。
十文字くんは私が渡したリストを真剣に読み始めた。
営業に必要なパンフレットを用意していると、彼がその用紙をデスクに置いて、ある一点を指さす。
「あのー、ここですけど」
「『居酒屋串さと』がどうかした?」
串さとはその名の通り串揚げがメインのお店で、アルコールは百パーセントガイアビール。
なにか一種類でもシェアが取れればと思ったんだけど。
「ここはやめたほうが……」
「なんで? 人気店なんだから当然狙うでしょ? ガイアの牙城を崩すつもりで行くわよ」
簡単に採用されないのは百も承知。
でも、そのくらいの気持ちでぶつからなければ、成長なんてありえない。
「いや、でも……」
「でも、なに?」
「なんでもありません」
結局十文字くんは黙ってしまった。
大手のガイアビールを相手に二の足を踏んでいるのだろうか。