「それじゃあ、スーツも買わない? 十文字くん、身なりを整えたらかっこいいと思うのよね」
おどおどした態度を直さないとそうもいかない気はするが、中島さんに啖呵を切ったときの彼は男らしかった。
「かっこよくなるんですか?」
「うん、なるなる」
声が小さくなったのは見逃して。
あまり期待されても困る。
「よろしくお願いします!」
珍しく鼻息が荒い彼は、それなりに気にしていたのかなと感じた。
翌日の待ち合わせは、表参道の駅を指定した。
どこに行くか迷ったけれど、ここの近くに私の行きつけの美容院があるからだ。
昨日ひねった足も大したケガではなかったようで、一応ヒールなしの靴を履いてきたが問題なさそうだ。
十文字くんはもはや職人技とも思える約束の一分前に、半袖の白いシャツとジーンズという服装で姿を現した。
服装は爽やかだけど、ちっともあか抜けない。
「おはよ。ねぇ、制服じゃないんだから、第一ボタンは外したらどうかな?」