徐々に声が小さくなっていくが、なんとか意見を主張している。


「弊社の調査では黒ビールは冬場によく出ます。秋頃から置いていただいてワンシーズンお試しいただけないでしょうか」


もうこれで精いっぱいだと感じた私は、ふたりの会話に首を突っ込んだ。


「冬ね。たしかに冬になると黒がよく出てるかも」

「弊社のネクスト黒はかなりの自信作でして、ドライな大人の味に仕上がっています。山本さんみたいな成熟した大人の方にはぴったりのビールなんです」


なんて、ちょっと持ち上げてみる。


「それじゃあ、今度サンプル持ってきて」
「承知しました!」


私は十文字くんと顔を見合わせて微笑みあった。



車に戻ったあと、早速口を開く。


「十文字くん、頑張ったじゃない」

「篠崎さんが、売りたいという気持ちを持ってとおっしゃったので、心の中で売りたい、売りたいと思っていました」


あはは。彼なりに実践したのね。