その後は何事もなく、マンションの部屋に駆け込んだ。

もののけにはたくさん遭遇してきたが、命の危機を感じたのは初めてだ。

最近、姿を現すもののけの数も増えているし、凶暴化しているような気もする。

ヤツらはちょっと疲れているときとか、気が弱っているときによく顔を出す。
私の心理状態がわかっているのだろうか。


「なんで……」


洗面所に行き鏡に自分の姿を映したが、あれほど強く絞められた首には痕ひとつ残っていない。

あの銀髪の男がこの辺りを舐めたあと『これで大丈夫だ』と口にしたけれど、傷を消してくれたってこと? 

しかも『仕事中からは想像できないくらい初心なんだな』と言っていたが、私のことを前から知っているの? 

でも、空から降ってきたし……。

もしかして彼ももののけの仲間? 
私が知らないだけで、良心的なもののけもいるのかもしれないし。


「俺が守ってやる、だって」


私が抵抗してもびくともしなかったカエルをたったひと蹴りで退けた彼は、クールで素敵だった。