状況を呑み込めない私がカチカチに固まっているうちに離れていった彼は、私の耳元でささやく。


「これで大丈夫だ。こんなに真っ赤になって……。お前、仕事中からは想像できないくらい初心なんだな」
「えっ……」
「もう泣くな。俺が守ってやる」


私の頬に伝っていた涙を大きな手で拭った彼は、一瞬にして姿を消した。

だ、誰……?

どうして空から降ってきたのかとか、もののけが見えるのかとか、その和装姿はなんなのかとか、聞きたいことがたくさんあったのに、なにひとつとして疑問が解決されないまま取り残されてしまった。


「どうされました? 大丈夫ですか?」
「あっ、大丈夫です。転んでしまって。ドジですよね……」


ようやくスーツ姿の男性が声をかけてくれたので、慌てて立ち上がる。


「お気をつけて」
「ありがとうございます」


深々と頭を下げた私は、その男性のあとを追いかけるように足を進めた。
今はとにかく家に入りたい。