彼女が目を丸くするのも無理はない。
十文字くんが会社ではそんな姿を一度も見せたことがないからだ。
というか、毎日のように一緒に行動している私も今日初めて見た。
「正直、ちょっとキュンとしたのよ。すぐに我に返ったけど」
なんて言いつつ、彼の唇が迫ったとき受け入れそうになった自分を思い出していた。
我に返ったのは十文字くんのほうだ。
「あはは。あの髪形とか服装とかなんとかしたら、すごくイケメンだったりして。あれじゃあ得意先ウケもよくないでしょ?」
私はうなずいた。
特に女性人気がない。
「いろいろ言ってはいるんだけど、どうしたらいいかわからないらしいのよね。あんまりファッションに興味がないみたいで」
以前、ファッション誌をさりげなく渡したことがあったが『かっこいいですね、この人』と完全に他人事だった。
たしかに私もファッション誌のモデルを見て、こうなれるとは思ったことはないけれど、少しは興味を持てばいいのに。